犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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そうこうしてる間に雨がぽつぽつ降り始め、俺たちは踊り場へと避難した。
ちょっとした沈黙の後、

「ねえ、律先輩。さっき撮ったスナップ写真、見して」

わんこが好奇心いっぱいの目を輝かせながら、被写体として当然だという風に、そう言ってくる。

パタパタと振られるしっぽ。
はっはっ、と少し荒い息遣い。

それらは当然、幻覚と幻聴だけど、一瞬、そんな場面が脳裏に浮かんで頬を緩めた。

「ほら」

俺からデジカメを譲り受けた米倉はまた好奇に満ちた目で、さっき撮ったスナップのプレビュー画面に見入る。

「俺……」
「ん?」
「先輩の前で、こんな表情(かお)で笑ってるんや」

へへへと照れ臭そうに笑いながら、今度は米倉がだらしなく頬を緩めた。




「――――っっ」
「ん、律先輩。どうしたん?」

――やばい。可愛すぎる。

2メートル近い図体をしてるくせに、そんな米倉がとてつもなく可愛く見えてくる。
そもそも俺は犬は苦手で、どちらかと言えばクールで気まぐれな猫の方が好きだったはずだ。

なのに、まるでゴールデンレトリバーだとかラブラドールレトリバーだとかの大型犬のような米倉に、不覚にもちょっとだけ萌えてしまった。

「…その表情(かお)、反則だっつの」
「え?」

なんでもないよと顔を反らしたら、

「…先輩?」

小首を傾げたわんこの顔が俺の顔を覗き込んでくる。

「…先輩。顔、まっか」
「うるせえよ」

その顔からも逃げようと立ち上がろうとしたら、

「先輩、かわいい」
「わっ!」

そう言いながら、真正面からぎゅっと抱きしめられた。

「こ、こら。離せ」
「や」

なっ、「や」って!
やばい。やばい。やばい。
マジで可愛すぎだっつの。

母性本能がくすぐられる感じ。
ぎゅっと抱き着いてくるでっかいわんこの頭を、ぐしゃぐしゃに撫で回してやりたい衝動に駆られる。
今の状態はわんこに抱きしめられてる状態で、だけど、俺の中ではわんこに抱き着かれている状態。

どうしよう。
ここに来てはっきり自覚してしまった。


俺にぎゅっと抱き着いて、俺の髪をすんすんと鼻を鳴らして嗅ぐ目の前のわんこのことが。



自分が思っている以上に好きらしい。



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