犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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犬小屋の鍵、貸します。


梅雨らしいことに、降り続く雨はなかなか降り止まなかった。

「ほら、わんこ。こっち見て」

昼休み。
それでも少しの雨が止んでる隙を見つけては、屋上に出て、わんこにカメラを向ける日が続いている。

「こう?」
「ぶはっ。なんだよ、そのポーズ」

写真撮影が趣味だと米倉にカムアウトした俺は、もう隠すことなく、俺専属の被写体にカメラを向けた。


表情がころころ変わる、よく言えば表情が豊かな米倉のスナップは、一枚たりとも同じものがない。
ふざけて取ったポーズもそうだけど、米倉が起こす行動自体、先が読めないのだから当たり前か。

背景が重苦しい濃いめの灰色なのが少し残念だけど、米倉には青い空と太陽がよく似合う。
それは底抜けに明るい性格とわんこのような人懐っこさから来ているんだろう。

あれからも俺たちは昼休みをともにして、それでも、それ以上でもそれ以下でもない不思議な関係が続いている。
たまに俺のことが好きだと言ってくるのは相変わらずだけど、それは『だから律先輩って好き』的な曖昧なものだ。

付き合ってと言われもしなければ、性的な意味合いで迫ってくる気配もない。
単なる友達とも先輩、後輩の間柄とも言えないような曖昧な位置付けながら一緒にいる俺たち。

まあ、こいつには彼女がいるから当たり前か。

好きの一件にしてもそうだが、たまに抱き着いてきたり、必要以上にスキンシップを取りたがるのもわんこな性格だからなんだろう。
それがわかってしまったから、米倉の好きなようにさせておいた。

「…なんか。律先輩、変わった」
「ん?」
「そんな笑うとかって」

そう言って、ふにゃける米倉に苦笑う。

「なんだよ、それ。俺の顔は能面じゃないっつの」

確かに米倉の言う通り、こちらに来る前に得意としていた営業スマイルは、こちらに来てから封印している。
特に親しい友人もおらず、いつも一人でいる俺が笑わないのは当然のことだ。

そう言えば、バイト先以外でこうして笑うのは酷く久しぶりだ。


「ねえ、先輩。俺とおって楽しい?」

そう聞かれ、

「まあな」

なんとなく気恥ずかしくて、俺は米倉から視線を外した。



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