犬小屋の鍵、貸します。 犬小屋の鍵、貸します。 (30/50) なにより、米倉の口から彼女の話が出るのが怖かった。 ノンケな米倉が俺に恋愛感情を持つなんて有り得ないし、あいつが俺を好きな感情もどうせ、少し毛色の変わった先輩に対するそれだろう。 それが痛いほどにわかっているから、米倉の気持ちに迫ることができない。 本当のことを言うと、白黒はっきりつけたかった。 自分の気持ちにも。 ぬるま湯に浸かったような曖昧な関係も心地いいけど、いつまでもこのままではいられない。 放課後。 帰宅部の俺はバイト先に向かう前に、こっそり体育館を覗いた。 一眼レフを被写体に向けながら、ファインダー越しに相手を思う。 一度はもう会わないと決めたのに、悪戯に増えていく写真。 アルバムにまとめたら数冊になる隠し撮りのそれらを思い、フィルムを交換する。 シャッターで切り取った一瞬一瞬がリアルタイムで、次のシャッター音でそれは過去に変わる。 その一瞬一瞬の米倉を逃さないように。そんな気持ちで、丁寧にシャッターを切る。 最近、増えてきたのは何気ない場面の米倉で、あの間抜けな笑顔もフィルムに納めた。 一目惚れしたゴールする瞬間の米倉だけじゃなく、日常の何気ない表情も俺を魅了する。 あーあ。 確かに不細工まではいかないが、どちらかと言えば平凡な顔をしているくせに。 なんでこんなに惹かれるのか、俺にはそれが不思議でならなかった。 好きとか嫌いとか、そんな次元じゃなく米倉に惹かれている。 どうやら、それを認めなければいけない時が来たらしい。 prev|next 30/58ページ PageList / List / TopPage Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved. |