犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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普段はポケットにデジカメを忍ばせて、ちょっとしたシーンや風景をこっそり切り取っている。
最近の放課後は一眼レフを持ち出して、体育館下の空気孔である小さな窓から隠し撮りをしていたり。

練習中もチームメイトと馬鹿話をしているのか、だらしなくへらへらと笑っている米倉。
なのに、一度(ひとたび)ボールを手にすると、まるで別人のように目つきが変わる。

矢を射るような真剣な眼差し。
米倉の手を離れたボールは軽く弧を描いて、そのままバスケットの中に吸い込まれた。


そうこうしているうちに予鈴が鳴り、俺ははたと目を覚ました。
わんこの方を見遣れば、間抜けな顔をこちらに向け、気持ち良さそうに熟睡している。

「こら、わんこ。起きろ」

授業に遅れるぞと揺り起こせば、

「…ん。おかん。もうちょっと」

そんな可愛い寝言に吹き出した。




『俺だけしか知らん先輩の秘密、もっと俺に教えてください』

そう、ワンコに言われた日。
その日を境に俺は少しずつ、自分のことも話すようになった。

東京から写真の勉強のために単身、大阪にやって来たこと。
その理由は家の呪縛から逃れるためじゃなく、有名な写真の専門学校に進学するためだとごまかしたけど。

それは実際にあるし、卒業後はそこへ進学する予定だ。

一人暮らしとアルバイトをしながら自活してること。
夢を追ってること。

結局、米倉に秘密にしていることは、嵯峨野の人間であることと父親に勘当されたこと、バイト先の詳しい情報ぐらいになった。

あ。
それとちょっと特殊な性癖もそうか。


饒舌にべらべら喋るわんこのお蔭で、わんこのこともだいたいわかるようになるようになった。
唯一、今でも聞けないし、わんこも口にしていないのが彼女の存在だ。

あんなに可愛い彼女がいるのに、彼女の話は全く出ない。
米倉の口から出る女子の話題は二人いるお姉さんの話ぐらいで、そういえば二人で恋バナもしたことがない。

俺の過去の恋愛も聞かれないし、まあ、それは俺にとっては幸いだったけど。
俺にとっての恋愛から同性愛は切り離せなくて、本当のことを言おうとすれば、自分が同性愛者であることをカミングアウトしないといけない。



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