犬小屋の鍵、貸します。
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ファインダー越しの恋


午前6時。
けたたましい目覚まし時計のアラームを合図に、俺の一日が始まる。
携帯のアラームを目覚まし代わりにしているやつも多い中、俺はそんなやわな音では起きられない。

自慢じゃないが、すこぶる寝起きが悪い俺のベッド脇には、目覚まし時計が三つ。
手が届くものから一つずつアラームを止めて行き、最後の一つはベッドからかなり離れた場所に置いてある。

「…あー、うるせ」

そのお陰で、今日もなんとか時間通りに起きることができた。


なんでも抜かりなく熟す俺だが、朝だけは苦手だ。
心地よいまどろみの中を叩き起こされるのは不快この上なく、朝が来なければいいと何度、思ったことか。

特に家を出て、一人暮らしを始めてからは、それを痛感していた。
実家にいる時は世話役の柿原が起こしてくれていたし、嵯峨野の温床に守られて暮らしていた。
なんとか重い体を起こし、着替えをしようと立ち上がった。

まずは特に意味もない、顔を隠すためだけの眼鏡をかける。
このレンズには度数は入っていないが、こうやって視界を遮っていると安心する。
この世には、直接、見るには眩しすぎる物が多すぎる。


窓から差し込む柔らかな朝陽に照らされたベッド。
白いシーツまでもが目に眩しくて、思わず息を詰める。

実家にいた時には気付かなかった。
自由を手に入れた今になって気付く。
世の中は、こんなにも綺麗なもので溢れているんだ。

朝からシャワーを浴びて、身支度を整え、簡単な朝食を取り。
通学の支度が調ったところで、家を出た。


実家から家出同然に飛び出してきて、もう二ヶ月が過ぎようとしている。
飛び出したといっても嵯峨野が所有するマンションの一室に間借りしているに過ぎず、独立しているとは言い難いのだけれど。

俺の家系は代々続く事業家で、親父はいわゆる不動産王だ。
全国津々浦々に、幾つもの嵯峨野系列のマンションを所有している。

そんな嵯峨野家の跡取り息子。
二人兄弟の長男でもある俺は、嵯峨野の後を継ぐことを嫌い、大学への進学前に嵯峨野の家を出て来てしまった。

といっても実質的には両親の目が届かない場所に避難したに過ぎず、表向きには世話役の柿原を始め、嵯峨野の影が付き纏わなくなっただけだった。



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