犬小屋の鍵、貸します。
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「な、で……」
(なんでこんなとこにいるんだよ)

それは声にはならなかった。

「…ん、律せんぱ?」

米倉の声にびくりと反応してしまい、踵を返した瞬間、

「ちょお、待って!」

米倉に腕を引かれた。

(――ぽふっ)

そして再び米倉の腕の中。
今から一週間くらい前。
屋上で寝ぼけた米倉の胸にダイブした時以来だ。

「……ん」「ちょ。おい、こら」

あの時のわんこは寝ぼけていたから、そのまま、俺に抱き着いたままにさせておいた。
けど、今、目の前にいるワンコは寝ぼけたふりをしているけど、さっきはっきり俺を呼び止めたよな。

だったらわんこに抱き着かれたまま、大人しくしてる義理はない。

腕から逃れようとした瞬間、

「…ばっ」

やけに熱い手が制服のシャツを捲くり上げて、中に入って来た。


「…あっ」

ゆるりと腹筋辺りを撫で摩(さす)るから、思わずヘンな声が出ちゃったじゃないか。

こ、この……、

「いい加減にしろっ、この駄犬!」
「わ、先輩。ごめんっ、ちょ……、痛いって!」

その手が不意に脇腹辺りをくすぐってきたから、俺は思わず反撃してしまった。





「律先輩、ごめんって。もうせえへんから」
「…………」

屋上でわんこと落ち合っているうち、いつしかふざけてくすぐってくるようになったわんこ。
脇腹が弱点だと見抜かれた日、俺の上に馬乗りになった米倉に、ひーひーと涙を流して笑い転げるまで執拗にくすぐられたのだ。

米倉いわく、普段、表情を変えない俺が感情をあらわにするのが楽しいらしい。

「…怒っとる?」
「――っ!」

ああ、くそっ。
その目は反則だっつの。

怖ず怖ずと床にへたれているわんこが上目使いに見上げてきた。
しょぼんと垂れた耳と縮まったしっぽが目に見えるようで、思わず溜め息を一つ。

「…なんでいるんだよ」
「んと、会いたかったから?」
「―――っっ」

つか、なんで疑問詞?
ちなみに、それも反則だから。

俺はクールで無口な男が好みだったはずなのに。
いつしか、こんなにも駄犬にほだされている。



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