犬小屋の鍵、貸します。
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好きとか嫌いとか


結局、中途半端なもやもやを抱えたまま、とうとう大阪は梅雨入りしてしまった。
降り続く雨に屋上に行くこともできなくなって、もう、一週間近くわんこには会っていない。

それと言うも俺が極力会わないようにと、一年生の行動範囲を避けているからだ。
なのに、あの間の抜けた笑った顔がどうしようもなく見たくなったりするから始末に終えない。

そんな気持ちに戸惑いながら、ぼんやりと窓の外を眺めた。


「わんこ欠乏症、か」

とんでもない病(やまい)に掛かってしまったものだ。
しかも、かなり重症の。

教室の自分の席から眺める校庭には休み時間だというのに人影もなくて、ただ規則正しい雨が降り続く。

擬音にすれば『サー』と表されるそれは穏やかなようでいて、連日ともなれば憂鬱さも伴うらしい。

校庭の隅の渡り廊下に長身の人影を見掛けて、慌てて手にした、もう何度も読み直した小説に視線を戻した。


とある雨降りの日の昼休み。
雨の日の昼休みに避難する場所をまだ見つけられない俺は、自分の教室で弁当を食べ終え、あまった時間を読者でやり過ごしていた。

渡り廊下の人影がワンコに見えて、思わず視線を外してしまう。
確かに長身ではあったが2メートル近いワンコとは別人だったなと、その後に自嘲気味に苦笑う。


会えなくなって、思い出すのは米倉のこと。
いつの間に、こんなに好きになってしまったんだろう。

必死に気持ちに蓋をしてきた。
なるべく見ないように、聞かないように。

それも、同じ場所で同じ空気を吸って、同じ時間を過ごすだけで振り切れてしまった、好きな気持ちのバロメーター。
危険信号を受信しながらも、そこに居続けた俺が悪い。

自業自得だと苦笑いながら、賑やか過ぎる教室を出た。
やっぱりここは居心地が悪い。

屋上以外に雨の日でも、一人になれる場所を探さなきゃ。


気付けば足が屋上へ向かう階段を上っていた。
この雨の中じゃ、屋上に出ることもできないのに。
おバカなわんこは『屋上でなら』という約束を心から喜んで、俺の携番もメアドも聞いて来なかった本物の馬鹿だ。

毎日、屋上で会えると思っていたから聞いて来なかったんだろう。
ふとそんなことを思い出し、そんなどこか抜けた米倉を可愛く思いながら階段を上る。

「え」

階段を上り切った最上階。
屋上の手前。
俺が倒れた踊り場の床。

でっかいわんこがうずくまって眠っていた。



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