犬小屋の鍵、貸します。
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『一目惚れって信じます?』

そう言って笑ったワンコ。
それって、
俺に一目惚れしたってことか?

確かに、そっと触れてくる大きな手の温もりで、それを感じないでもないけど……。
お前、彼女がいるじゃん。

米倉がこちら側の人間、つまりはゲイじゃないことは経験上、すぐにわかる。
ノンケな男が俺なんかに一目惚れとか言ってくるのは、多分、単にこの顔に惚れたということなんだと思う。

必死に隠してきたのに呆気なくワンコの目の前に晒されたそれは、男らしさというよりは中性的な美人とされるそれ。
自画自賛じゃないけど、一応、自覚はある。

男子校時代、タチネコどちらの人間からも言い寄られていたのは、見た目と性格のギャップなんだと思う。
見た目は女顔なのに、性格は猫かぶりながら王子と称されるフェミニストを装っていた。

実際の俺はこの通り、無気力で無愛想で不器用で、タチネコどちらのスタンスも取れるから悪戯に不特定多数と関係も持っていた。

わんこは知らない。
そんな俺の過去を。
そんな俺を知ってしまったら、米倉はどう思うだろうか。

『教えて。律先輩のこと』

そう言われても、教えられるわけがない。
何に対しても無気力で無関心な、ただの写真馬鹿。
自分のことを話すにも過去を避けては無理な話で、そうなると、隠してきたこと全てを晒すことになる。

できれば嵯峨野の名前も隠したかった。
この学校には、その意味を知る者はいないだろうけど。

「…写真家を目指してるただの律、それじゃだめか?」

目を閉じたまま、誰に聞かれるでもなく呟いてみる。
どうやら隣のわんこは眠ってしまったようで、さっきから定期的に規則正しい寝息が聞こえる。


好きとか気軽に言うんじゃねえよ。
へらへら笑いながら。
しっぽをぱたぱた振りながら。

わんこの『好き』は俺の『好き』とは同じじゃない。
わかっているから胸が痛かった。

わんこの気持ちは俺には計り知れなくて、こんなにも胸を掻き乱されてしまう。
眠ってるわんこの前髪を掻き上げて、頬にそっと触れてみる。

「…ん、先輩」

瞬間、腕を引かれて、わんこの胸にダイブした。



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