犬小屋の鍵、貸します。
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米倉は何も考えてないようでいて、実は自分の考えをしっかり持っていた。

(やばい……)

赤いランプが激しく点滅し始める。

わんこののことを、詳しく知れば知るほど強く惹かれていく。

「先輩、俺ね」

まだまだ続きそうな喋りに蓋をした。
ワンコの隣で寝転がって仰向いて、瞼を閉じて意識を遮断する。
これ以上、米倉のことを知るのが怖い。

『教えて。律先輩のこと』

だからと言って自分のことを話すのも憚(はばか)られた。
今まで猫をかぶってきた俺は、夢の話や自分自身の本当の気持ちを知られるのが怖い。

今まで親友といえる心を許せる友人もいなかったし、夢や未来について話し合える相手もいなかった。
周りはみんな、父親の後を継いで会社を任される人間ばかりで、夢や希望は父親から譲り受けたそれを大きくするぐらいだ。

俺の心に土足で、ずかずかと入り込んでくる米倉。
その存在自体が怖かった。
真っすぐに前を見据えたその眼差しに、全てを見透かされそうで。

あんなに可愛い彼女がいるくせに。

堂々巡りのように繰り返される無限のループ。
今まで友人らしい友人もいなかった俺は、米倉を友人だとも思えない。

性癖が性癖だけに、同性は恋愛対象にしてしまう。
だから、どこかでブレーキを掛けないと。

ノンケでどうしようもないおバカで、しかも、可愛い彼女がいる。
そんな相手に恋をしたって不毛なだけだ。

「先輩。寝てもうた?」
「…ん」
「ははっ」

米倉の大きな手が俺の前髪を梳く。

「気持ちいいもんなあ」

そうのんきに笑った、米倉が隣に寝転がる気配。

こうやって米倉と落ち合うようになって一週間が過ぎ、その間に米倉は何度か冗談のように俺が好きだと言ってきた。

ぴかぴか光る赤いランプ。
米倉の気配が近づいて、激しく点滅し始める。
米倉の好きは友達としてのそれで、俺としては米倉と友達になったとは思ってないし、単に先輩としてのそれなんだと思う。

しかも、あんなに可愛い彼女がいるくせに。
なんで俺になんか構うんだろう。
わんこの気持ちが計り知れなくて、寝たふりをしたまま、瞼を開けられない。



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