犬小屋の鍵、貸します。 犬小屋の鍵、貸します。 (23/50) 米倉は何も考えてないようでいて、実は自分の考えをしっかり持っていた。 (やばい……) 赤いランプが激しく点滅し始める。 わんこののことを、詳しく知れば知るほど強く惹かれていく。 「先輩、俺ね」 まだまだ続きそうな喋りに蓋をした。 ワンコの隣で寝転がって仰向いて、瞼を閉じて意識を遮断する。 これ以上、米倉のことを知るのが怖い。 『教えて。律先輩のこと』 だからと言って自分のことを話すのも憚(はばか)られた。 今まで猫をかぶってきた俺は、夢の話や自分自身の本当の気持ちを知られるのが怖い。 今まで親友といえる心を許せる友人もいなかったし、夢や未来について話し合える相手もいなかった。 周りはみんな、父親の後を継いで会社を任される人間ばかりで、夢や希望は父親から譲り受けたそれを大きくするぐらいだ。 俺の心に土足で、ずかずかと入り込んでくる米倉。 その存在自体が怖かった。 真っすぐに前を見据えたその眼差しに、全てを見透かされそうで。 あんなに可愛い彼女がいるくせに。 堂々巡りのように繰り返される無限のループ。 今まで友人らしい友人もいなかった俺は、米倉を友人だとも思えない。 性癖が性癖だけに、同性は恋愛対象にしてしまう。 だから、どこかでブレーキを掛けないと。 ノンケでどうしようもないおバカで、しかも、可愛い彼女がいる。 そんな相手に恋をしたって不毛なだけだ。 「先輩。寝てもうた?」 「…ん」 「ははっ」 米倉の大きな手が俺の前髪を梳く。 「気持ちいいもんなあ」 そうのんきに笑った、米倉が隣に寝転がる気配。 こうやって米倉と落ち合うようになって一週間が過ぎ、その間に米倉は何度か冗談のように俺が好きだと言ってきた。 ぴかぴか光る赤いランプ。 米倉の気配が近づいて、激しく点滅し始める。 米倉の好きは友達としてのそれで、俺としては米倉と友達になったとは思ってないし、単に先輩としてのそれなんだと思う。 しかも、あんなに可愛い彼女がいるくせに。 なんで俺になんか構うんだろう。 わんこの気持ちが計り知れなくて、寝たふりをしたまま、瞼を開けられない。 prev|next 23/58ページ PageList / List / TopPage Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved. |