犬小屋の鍵、貸します。
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いぬのきもち


特にに知りたくもないのに、米倉のことをいろいろ知ってしまった。
米倉は大家族で兄弟が多いこと、この高校へはスポーツ推薦で入学したから勉強は苦手なこと。

甘いものが大好きで、辛いものや苦いものは大嫌い。
歩く時は頭を上下させてぴょこぴょこ歩き、へらへら笑いの間にたまにとびきりの笑顔が混じっていることとか。

ここ何日か降り続いた梅雨入り前の春の長雨に、久しぶりに足を踏み入れた屋上。

「律先輩、久しぶり」

久しぶりに顔を出した太陽を背中に背負って、馬鹿でかい図体のわんこが笑った。


ここ三日ばかり雨が降り続いた。
雨が降ると屋上へは出られない。
そうなると必然的に屋上へは行けなくて、学食や不本意ながら教室で昼休みを過ごすことになる。

長い昼休みの間、基本的には一人でいたい俺は、出来れば屋上に避難していたかった。
最近はわんこな珍入者もいるが、別段、気にならなくなってきてるし。

特に何を言うでもなく、フェンスの前、わんこの隣に座った。


「んー、気持ちええ」

いつものように軽く伸び上がる米倉。
米倉はポケットを探ると、まずは甘い香りの素のクッキーを取り出した。

「先輩、食いません?」
「遠慮しとく」

いろいろ知ってしまった一つ。

「残念。甘さ控えめにしたのになあ」

米倉のポケットに仕舞われた甘ったるいクッキー。
それは毎朝、米倉自身が焼いているらしい。

それから茶髪は次兄だかがカリスマ美容師らしく、その兄がわんこでいろいろ試しているようで、ピアスも高校に上がったすぐに空けられてしまった。
髪のピン止めやファッション関係はアパレル勤務の姉が担当しているらしく、

「俺、子供の頃から兄貴や姉貴のおもちゃやねん」

そう言って苦笑うわんこ。
ちなみにネクタイを締めていないのは、締め付けが苦手なわんこ自身がそうしている。

「律先輩。俺のこと、チャラいっておもてたでしょ?」

楽しそうに笑った米倉に痛いところを突かれた。
確かに米倉が言う通り、ファインダーを外した第一印象は最悪だった。

それをやめないのはパティシエの夢も諦められないかららしく、本気でプロのバスケ選手を目指すと決めたら、この格好もやめると言って笑ったわんこ。



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