犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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この場所は、晴れた日はとにかく気持ちがいい。
校内では一番そこに近い場所から見上げる空はどこまでも澄み渡り、時折、行き交う雲はいろんな形状を見せる。

わんこがいるから持ち出せないが、その変わりゆく様子やそこから見下ろす風景をカメラに収めたい衝動に駆られた。

「あれ、律先輩。食べへんの?」

それから、米倉から発せられる、甘ったるいにおいの原因が判明。
大口を開けて、大きなメロンパンにかじりつくわんこが一匹。

米倉の昼食はいつもメロンパンやチョココルネなんかの菓子パンで、甘い物が苦手な俺は、それを見るだけで胃液が競り上がってきた。
米倉はいつもそれに牛乳を添えている。

「先輩も食う?」
「や。遠慮しとく」

米倉は菓子パンを主食としていて、それらをデザートとしか思えない俺は丁寧に断った。
他にも米倉はクッキーやプリン、いわゆる、ぺろぺろキャンディーと呼ばれる棒付きの飴なんかを常備していて、米倉から漂う甘いにおいはそれら菓子類のにおいなんだろう。

「残念。このパン、めっちゃ美味いのに」

そう残念がりながらも米倉のお喋りは止まらない。

「教えてください。先輩のこと」
「そう言われても、話すようなことはないよ」

と、心の内を遮断したら、

「じゃあ、知ってください。俺のこと」

そう言われて、現在に至る。


昼食後の気怠(けだる)さのなか、いつものように軽い睡魔に襲われた。
それでも止まらない米倉の声が、どこか遠くに聞こえる。

実は米倉の家は大家族で、米倉は七人兄弟の末っ子だとか、学校にはスポーツ推薦で入学したから、勉強は苦手だとか。
それから米倉はお菓子作りが趣味で、将来はパティシエになるかバスケのスター選手になるかで悩んでいるとか。

「律先輩、聞いてます?」
「…ん、聞いてる」

そう言いつつも、だんだん重くなる瞼に俺はゆっくりと目を閉じる。

「…先輩、起きとる?」
「寝てる」
「ははっ、そっか」

俺の顔を覗き込む気配を感じないでもないが、今は瞼を開けられない。
いつもは眠っているこの時間を、不意の侵入者に邪魔されたくはない。



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