犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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直接、この目で確かめたはずなのに。ファインダー越しじゃない現実を。
それなのになぜ、こんなにも胸が騒ぐんだろう。

俺は黒髪、短髪の精悍で爽やかなスポーツマンタイプの男が好みであって、あいつはスポーツマンなところしか俺の理想に当て嵌まらない。

ぱさぱさに傷んでそうな茶髪も、耳のピアスも好きじゃない。
チャラそうな見た目に間抜けな関西弁も……、と。これは最近、人によっては萌えることを発見したけど。

それから、無骨で無口。無愛想なくらいの男の方が、ぐっと来る。
何を考えているのかわからないミステリアスなところとか、クールなところとか。
いやに饒舌で軽くて、誰にでも尻尾(しっぽ)を振ってるわんこの全く好みじゃないのに。

けど、ちょっとだけ……、あいつの顔は好き。
それから、あの真っすぐな瞳も。

その真っすぐな瞳が写す唯一無二の存在になってみたいとか、そんな馬鹿なことを考えるくらいに。

その存在は間違いなく彼女で、屋上で告られ、あんなに真摯に謝るくらい、好きな子を真っすぐに想っているのに。


それでも、それも俺がわんこに会わなければいい話で、無用に近づかなきゃいいだけだ。
そもそも俺はたまたまやつが告られてるシーンに立ち会ってしまっただけで、わんこと俺とには共通点がない。

それに、わんこが俺に声を掛けたのも気まぐれだろうし、あのシーンから考えても、俺たちがどうこうなることは有り得ない。


「とにかく、風呂入らなきゃ……」

いけないのに。
今夜はやけに瞼が重い。
いったん瞼を閉じてしまうと、そのまま眠ってしまいそうだ。

バイトと学校の往復で疲れが溜まってしまったんだろうか。
だけどバイトにももう慣れたし、別に無理なことなんかなんにもしてないんだけど……、な。


意識がだんだんと薄れていく中で、でっかいわんこが笑った気がした。



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