犬小屋の鍵、貸します。 犬小屋の鍵、貸します。 (17/50) 直接、この目で確かめたはずなのに。ファインダー越しじゃない現実を。 それなのになぜ、こんなにも胸が騒ぐんだろう。 俺は黒髪、短髪の精悍で爽やかなスポーツマンタイプの男が好みであって、あいつはスポーツマンなところしか俺の理想に当て嵌まらない。 ぱさぱさに傷んでそうな茶髪も、耳のピアスも好きじゃない。 チャラそうな見た目に間抜けな関西弁も……、と。これは最近、人によっては萌えることを発見したけど。 それから、無骨で無口。無愛想なくらいの男の方が、ぐっと来る。 何を考えているのかわからないミステリアスなところとか、クールなところとか。 いやに饒舌で軽くて、誰にでも尻尾(しっぽ)を振ってるわんこの全く好みじゃないのに。 けど、ちょっとだけ……、あいつの顔は好き。 それから、あの真っすぐな瞳も。 その真っすぐな瞳が写す唯一無二の存在になってみたいとか、そんな馬鹿なことを考えるくらいに。 その存在は間違いなく彼女で、屋上で告られ、あんなに真摯に謝るくらい、好きな子を真っすぐに想っているのに。 それでも、それも俺がわんこに会わなければいい話で、無用に近づかなきゃいいだけだ。 そもそも俺はたまたまやつが告られてるシーンに立ち会ってしまっただけで、わんこと俺とには共通点がない。 それに、わんこが俺に声を掛けたのも気まぐれだろうし、あのシーンから考えても、俺たちがどうこうなることは有り得ない。 「とにかく、風呂入らなきゃ……」 いけないのに。 今夜はやけに瞼が重い。 いったん瞼を閉じてしまうと、そのまま眠ってしまいそうだ。 バイトと学校の往復で疲れが溜まってしまったんだろうか。 だけどバイトにももう慣れたし、別に無理なことなんかなんにもしてないんだけど……、な。 意識がだんだんと薄れていく中で、でっかいわんこが笑った気がした。 prev|next 17/58ページ PageList / List / TopPage Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved. |