犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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本格的に降り出した雨。
大粒の雨粒が降りてくる雲は空に重く垂れ込めて、本来なら、辺りに立ち込めるはずの光を遮断する。

まだ真昼にも関わらず薄暗いなか、

「授業始めるぞー」

授業が始まり、担当教師が教室の電気をつけた。

「ええか。次の問題は試験に出すからな」

授業ももちろん、関西弁で進む。
受験を間近に控えているからか、ふざけたりおちゃらける生徒もおらず、

「お。時間やな」

特に何事も起こらないままに、授業は終わる。
その日は一日降り続いた雨も次の日には上がったが、俺は何故だか屋上には行けないでいた。


放課後、真っすぐにバイト先に向かって仕事を熟して帰宅する。
そんないつもと変わらない日常の中から、屋上での時間は外された。

『律先輩。俺、またここで待ってるから!』

あの時。
階段を下りてる時に、背後からそんな声が聞こえたような気もしたけど、どうせ幻聴だろう。

ファインダーを外した出来事なのに、それなのに、余分なフィルターを掛けてどうする。
それも俺の都合がいいように見えてしまう、取って置きのフィルターを。

勉強以外の何もかもを制圧された生活の中で、学力の他に想像力も研ぎ澄まされた。
だからか、ついつい自分のいいように妄想してしまう。
あいつには可愛い彼女がいるのに。


好きな子がいるからって、断っていた。
告ってた子も、普通に可愛い子だったな。

わんこの隣はそんな可愛い子が似合う。
無表情で無愛想、しかも男の俺がいていい場所じゃない。

それがわかっているから、屋上にも行けなかった。
二年生の教室がある校舎や体育館に近づくのも極力避けているからか、幸い顔を合わせることもない。


「ただいまー」

夜。バイトが終わって帰宅した時に玄関先で、ついつい口をついて出てきてしまう一言。
こんな言葉、嵯峨野の実家にいる時は、ほとんど口にしたこともなかった。

待ってる人間が誰もいなくなってから口癖になるとは、なんとも皮肉なものだ。

自室のドアを開けたら、まず、目に入ってくるもの。
ファインダー越しのわんこのパネルをぼんやり眺めながら、ベッドに倒れ込んだ。

「ふう……」

思わず、溜め息を一つ。
詐欺写真から視線を外して、目を閉じた。



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