犬小屋の鍵、貸します。
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授業が終わったばかりの教室は緊張感が解け、一気に活気づく。

「ふいー、終わったー。少ない脳みそ使い切ったわ」
「なんや。おまえ、脳みそなんかあったんか」

関西弁って、どうしてこうものんびりしてるんだろう。
喧嘩を始めればかなり迫力もあるけど、普通に喋ってるのを聞くと気が抜ける。

二人で話しているとどっちがボケかツッコミの役割かが手に取るようにわかるし、独特の言い回しも面白い。

午前中の授業が終わった休憩時間。
これから昼休みが始まるというまさにその時、椅子から立ち上がりながら、そんなことをぼんやりと思った。

休み時間といっても誰と喋るでもない俺はいつも、なるべく目立たないように教室を出る。
一人でいると暗いやつだと思われてイジメの対象になり兼ねないし、なったらなったで、あとあと、いろいろと面倒臭いからだ。

「こら、なに寝てんねん」
「起きとるし!」
「あ、すまん。目ぇがあんまり細すぎるから寝てんのかとおもたわ」

廊下のあちこちで繰り出されるゲリラ漫才を漏れ聞きながら俺は、足早にいつもの場所へと向かった。


それにしても、女子の存在があるってだけで、これだけ華やかで活気に溢れた雰囲気になるんだ。
俺の通っていた高校は男子校だったというのもあるし、通っている生徒も生徒だから少し異様な雰囲気だった。

眉目秀麗で文武両道、しかも家柄も申し分ない生徒には親衛隊がつくほどで、お互いの父親の関係で主従の関係が決まることもあり、ご機嫌伺い的な付き合いも多かった。
言ってみれば男子校でありながら王子様のような存在がいたわけで、まあ、家柄とかいろいろ総合して俺がその存在だったわけで……。
まあ、これはどうでもいいか。

廊下の突き当たりにある階段を上り切った踊り場の向こう。
ぎしりと軋む鉄製の扉を向こうに向かって開けば、雨のにおいがつんと鼻についた。


あちゃー、とうとう降り始めるかな。

まだ本降りにはなっていないものの、頭上には鈍色の雲が重く立ち込めて、今にも雨が降り出しそうだ。
天気予報では雨の確率は20パーセントだと言っていた気がするけど、本当に最近のものは当てにならない。

この屋上は去年、生徒の転落事故死があったとかで、一般の生徒はあまり近寄りたがらない。
それを逆手にとって知らないふりをして俺は、穴場としてここを利用しているんだけど。

本降りになる前に、どこか一人になれる場所を探さなきゃ。
そう思った刹那、

「…………」

向こうで誰かの声がした。



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