犬小屋の鍵、貸します。
犬小屋の鍵、貸します。

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だからといって、俺の強い意思は変わらなかった。
今までずっと我慢して周りの言いなりになってきた分、やると決めたらもう、後戻りは出来ない。

それから運動部のいる体育館や運動場を回って、こっそり撮影を始めた。
ただ、以前の高校はスポーツには力を入れておらず、被写体になる人物を見つけるのにも苦労したっけ。

それも、前の学校を去った理由の一つ。
嵯峨野の家を出たかったから以外の。

前の学校に在学していた頃に、初めて応募したコンテストで奨励賞をもらったことも弾みになった。
まあ、これはビギナーズラックのようなもので、自分の実力だとは思ってないが。

簡単な夜食を済ませ、テレビを見遣る。
特に見たい番組があるわけじゃなく、テレビはただ、画像付きのBGMのような感覚だ。

ぼんやりと眺めていると安心する。
決して一人暮らしが淋しいだとか、そんな感傷的な気持ちではないのだけれど。

しばらくそうしていて、日付が変わる頃にテレビを消した。
途端、静まり返る部屋に不安感を煽られるが、気にしないそぶりで風呂場へ向かう。

今日、一日の疲れと汗を熱めのシャワーで流しながら、ふと、わんこのことを考える。
身長差が50センチ近くありそうな二人は、それでも仲が良さそうでお似合いだった。

ああいうのが普通だとわかっていながら、その隣に立つ自分を思う。

「…………」

が、どんな顔をして立てばいいのかがわからなかった。
そもそも面識もなければ、話し掛ける話題もきっかけも見つからない。
テスト期間も終わった今は彼一人で朝練することもなく、かといって放課後の練習を覗く気にもなれなかった。

その他大勢の中でもその眩しさを保っているとは思いたいが、彼一人が醸し出す、あの独特な静寂はない。
彼だけを被写体として、彼がいる風景を切り取りたい衝動に駆られるだけで、バスケットボール自体に興味もないし。

もう、終わりかな。
彼だけを撮り続けるのは。

別に体育祭だとかで撮影すればと思われるだろうが、俺はそもそも写真部には所属していない。
カメラが趣味だということも内緒にしていて、とにかく学校では目立たず行動しているし。

シャワーから上がって髪も濡れたまま、全裸でベッドに潜り込んだ。
とにかく今日は眠りたい。

ただ……、それだけだ。



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