犬小屋の鍵、貸します。
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結局、その日は浮かない気分のままバイトを終え、帰りにコンビニ弁当を買って帰った。
それをキッチンのレンジで温めて、テレビを見ながら腹の中へ流し込む。

俺がコンビニ弁当を初めて食べたのは家を飛び出したその日で、ずっと行きたかったファストフード店で初めてハンバーガーを食べ、その美味さに感動して今のアルバイトを始めていたり。

初めてばかりのこの生活も、自由を手に入れた今は楽しいことばかりだ。


この部屋は家電も完備してある、単身者用のウィークリーマンションの一室で、周りの物は嵯峨野の家に置いてきた。
そう考えればこの状態は自立しているとは言い難いのだけれど、とにかく自立できるだけの資金を貯めることと高校を卒業することが先決だった。

高校を中退することも考えた。
将来、やりたいことに学校で習うことは何も役に立たない。

それなら早く辞めてしまって写真館やスタジオでアルバイトを始める方が…そうは思うものの、高校を中退したばかりの未成年を雇ってくれる所もないだろう。

だから、とにかく高校だけは卒業して、貯めた金でカメラの専門学校にでも進学して。
きちんと写真について勉強してから、夢に向かっても遅くはないはずだ。

初めて一眼レフカメラを買ってもらったのはいつだったか、父さんの気まぐれだったように思う。
まだ小学生の低学年だった俺は、使い捨てカメラのようにそれをいつも持ち歩き、いろんなものを撮影するようになった。


カメラマンになりたいと思ったきっかけは、新聞に載っていた一枚の写真。
当時、まだ高校の写真部員だった男子生徒が撮影したもので、その撮影した人物の名前は忘れてしまった。

ただ、真っすぐゴールに向かって弧を描くサッカーボールと僅かに手が届かないゴールキーパーが真横に飛びながら見せた悔しそうな表情が忘れられなくて、そんな瞬間を切り取りたいと強く思った。

それからはカメラマンになりたいという欲求とは裏腹に、勉強三昧の毎日が待っていた。
その勉強に不動産に関することや経営学が混じり始めると、途端に不安になった。

そんなこともあり、カメラマンになりたいじゃなくて、カメラマンになると決めて今に至る。

決めたはいいが、当然、父さんを中心に、周りからの猛烈な反対に遭うのだけれど。



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