犬小屋の鍵、貸します。
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…なんだ。彼女、いるのか。

なまじっか背が高いから、やはり目立ってしまっている。
制服姿だということは、今日も練習があったんだろうか。

お昼過ぎの中途半端な時間にこんな所にいるってことは、今から練習だとか練習試合の移動中だとも考えられるけど。


まだ名前も知らないわんこな彼と彼女らしき女の子が、こちらに向かって来る。
練習の時の真剣さが微塵もない顔をして、彼女と一緒にいるからか、垂れ目がさらに垂れ下がって見える。

だらし無い顔してんなあ……、そう思いながらも胸がちくりと痛んだ。
ふうん。彼女の前だとそんな優しい顔するんだ。

…別にどうでもいいけどね。

他のレジに行ってくれることをこっそり願っていたのに、俺のレジの最後尾に並ぶ二人。
それはそれ、これはこれで、きちんと仕事を熟さなきゃ。

「いらっしゃいませ、こんにちは。ご注文はお決まりですか」
「大地、なんにする?」
「そうやなあ……、美空は?」

ふうん。大地って名前なんだ。
で、彼女は美空か。

二人に順番が回って来て、そんなやり取りで偶然、彼の名前を知った。
ついでに彼女の名前も。

「うちはAセットかな」
「ほな、俺も」

そんな聞き慣れた注文の時のカップルのやり取りに、何故だか少しいらついた。
身長が2メートル近い彼に比べて、彼女の身長は150センチ、あるんだろうか。

上からひょいとメニューを覗き込む仕種がなんとも可笑しかった。
例えるならば、動物園のキリンが柵越しにこちらに顔を向けてるような。
その視線の先には、小さくて可愛い彼女。

その身長差が、なんとも、ほほえましく思えて胸が痛む。


「ありがとうございます。またお越しくださいませー」

店内に空席があまりないからか、二人は注文した商品をテイクアウトしていった。
二人の背中をなんとも複雑な気持ちで追い掛けて、

「あの、すんません。注文……」
「あ、あっ。失礼しました。いらっしゃいませ」

次のお客さんの声で我に返る。


そっか。大地って言うのか。
そんで、ちっちゃくて可愛い彼女がいると。

ノンケであることは、わかりきってはいたけどね。

そっか……、彼女がいたか。

今日、バイトに入らなきゃよかった。



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