SEX,SCHOOL&ROCK'N'-ROLL 屋上をステージに (7/25) 「…新曲だったな」 曲調や声でKだとわかったものの、そのKが歌っていた曲は初めて聴く曲だった。 その曲はまだ歌詞さえついていないようで、Kはでたらめな英語で歌っていた。 萌衣を送った帰り道。いつもの帰路をたどりながら思い出す。 ちらりと見えた背中は決してそんなに大きくもなくて、Kは自分と同じ等身大の高校生なんだと実感した。 「カラオケとか利用するんだ。スタジオ代わりかな」 雲の上の存在だったKをいきなり身近に感じて、胸が踊った。 だいたいの音楽スタジオの部屋は一人では借りられないから、Kはカラオケの部屋をスタジオ代わりに利用したんだろう。 雲の上から降りてきたKは案外、庶民的で、俺と同じ、普通の高校生なんだと思うと無償に嬉しかった。 Kは普段、どんな曲を聴いているんだろう。 どんなバンドが好きで、そのバンドにまつわるエピソードだとか。 とにかくいろいろと聞いてみたい思いに駆られる。 「…次に会ったら話し掛けてみようかな」 そう独りごちながら見上げた空。 その空、一面に札幌の街中では見えるはずがない、散らばった無数の星が見えたような気がした。 結局、その日も練習さえもできずに終わったけど、Kとの遭遇を思うと、それだけでなかなかなか充実した一日だった。 家に帰り着き、早速パソコンを立ち上げた。 ドロップ・アウトの公式サイトにアクセスをして、新曲やメンバーの近況をチェックする。 「正規ドラマーまだ見つかってないんだ……」 Kのブログの新着記事は新曲を作曲中だというもので、あの時、歌っていたのは、やはり新曲なんだと思うとまた胸が踊った。 ドロップ・アウトは正式なドラム担当者がまだ決まっておらず、ライヴでは、いつも他のバンドのドラマーがサポートメンバーとしてついている。 正規のメンバーはギター&ボーカルのKとベーシストのシンの二人だけで、このベーシストのシンもまた、カリスマベーシストだ。 シンは二十歳になったばかりの美容師で、カリスマ美容師とバンドマンとの二足の草鞋(わらじ)を履いている。 実は俺の髪は、そのシンが働く店でシンにやってもらっていたり。 唯一の接触がそれだけで、Kにプライベートで遭遇したのは初めてのことで、悪戯に胸が騒いだ。 少々、力不足ながら同じ音楽を志す人間として、Kと同じフィールドに立ってみたかった。 そんな素直な気持ちで、Kと接触したかった。 「…あ。こないだのライヴ音源アップされてる」 音源のダウンロードを済ませ、ベッドの上に仰向いて寝転がる。 瞼が重くてもう開けてはいられない。 ゆっくりと瞼を閉じると睡魔に襲われた。 「また……、会えるかな」 その日は思い掛けず、すぐにやって来た。 prev|next 7/58ページ PageList / List / TopPage Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved. |