SEX,SCHOOL&ROCK'N'-ROLL
スタートライン

(22/28)

「…はあ」

無意識に溜め息を一つ。
その溜め息が思い掛けず大きなものだったから、思わず辺りを見回してしまった。

「あ」

不意に昼休み終了のチャイムはもう鳴ってしまったのを思い出し、俺は教室へと急いだ。



慧と昼休みを過ごしているのは、そこだけ一般に開放されている特別棟の屋上で、二年生の半分と俺たち三年生の教室がある校舎とは少し離れている。

おまけに、二階の一番手前に教室があるA組の慧とは違い、俺のクラス、F組は三階の一番奥にあったりする。

「やばっ」

ちなみに、A組は特別進学クラスで、そもそも学科からして俺たち、普通科とは違う。
そんなわけで俺と慧が同じクラスになることはないんだけど、階段を駆け登りながら、二階を横切る時に後ろ髪を引かれた。


「すみません!遅れました……、あ」

慌てて駆け込んだ教室。
忘れてた。
5時限目の教科は芸術で、移動しなきゃいけなかったんだっけ。

俺が選択しているのはもちろん音楽で、音楽室はあの屋上のすぐ下の階、最上階にある。
授業の用意をして屋上に行けばよかったと今更ながら思いながら、また溜め息をついて机にうなだれた。

「サボろうかな……」

幸い、音楽はそれなりに得意の教科だけに、少々、サボっても留年や補習の心配はない。

「取りあえず……」

保健室のベッドで休もうと、再び教室を出る。



こう見えても俺は比較的真面目に授業を受けていて、授業をサボることはあまりない。
それでもどうしても授業に出る気分になれない時にだけ、こんな風に保健室に顔を出す。

「せんせー、ベッド借りていい?」
「…ん?おお、柴田か。どうした。珍しいな」

俺の声にうちの学校の校医であり、カウンセラーでもある養護教員の岩佐先生が振り返って人懐っこい笑顔を向けてきた。

「なんだ。生理痛か?」
「ん。まあそんなとこ。ちょっと寝かせて」

理由なんてどうでもいい。
白衣を着ていないと養護教員だとわからない三十路男のギャグを冷静に一刀両断すると、制服の上着を脱いでベッドに上がった。


静かな時間が流れる。
どうやら授業をサボっているのは俺だけのようで、ベッドは全て空いていた。

そのなかの一つ。
真ん中のベッドに上がり込んでカーテンを閉めたら、視界が一瞬にして白一色に染まった。

岩佐先生は俺が周りに合わせて無理しているのを知る数少ない一人で、何も聞かずにベッドを提供してくれるから有り難い。

悩みがあったらそれとなく俺から聞き出して話を聞いてくれるし、カウンセラーとしても尊敬できる人だったったりする。

思わず大きな溜め息をつくと、

「どうした。恋わずらいでもしたか」

俺に直接、問い掛けるでもなく、独りごちるように先生はそう呟いた。


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