SEX,SCHOOL&ROCK'N'-ROLL
スタートライン

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マキさんこと、槙野さんはドロップ・アウトの先輩とも言える道内のバンド好きの間では割とメジャーな中堅バンドの正規のドラマーで、そのバンドは現在、活動を休止している。

そんなマキさんは、俺が入るまでのドロップ・アウトを陰で支えてきたと言っても過言じゃないほどバンドに貢献してきた人で、そんなすごい人と俺を比べるってだけで恐れ多い。

ずっと座ったままで機材を弄っていたKが、溜め息混じりにこちらを振り返り、俺のことをじっと見つめてくる。

「弓弦がいい。弓弦以外はいらない」

今度はマイクを通さないでそう言われて、その瞬間、何故だか呼吸の仕方を忘れてしまう。



「弓弦?」
「―――っっ」

なんか、なんと言うか。
物凄い告白をされたような気がする。

言った本人はいつものように飄々としてるし、機嫌が悪いのは治まったようだからそれだけは良かったけど。

KはSSRのドラマーとして、バンドの一員として、そこまで俺のことを必要としてくれている。

わかっているのに、壊れそうな胸の鼓動。
絶対、今ので心臓が口から飛び出した。

『弓弦以外はいらない』

今までに何人かの女の子と付き合ったこともあるけど、そこまで情熱的な告白をされたことはない。

Kが言ったからなのか何なのかはわからないけれど、その一言が、恋愛での好きの意味に聞こえてしまった。

しかも、めちゃくちゃ男前な声でそんなことを急に言い出すもんだから、不覚にも胸きゅんと、ときめいてしまったじゃんか。

だから、

「――ワン、ツー」

Kがギターをちゃんと抱え直した瞬間を見計らい、すかさずセッションを始めてごまかした。



結局、その日はその後に途中参加した朗さんも加わって、普段通りに練習が終わった。
だけど、その日から俺の中でのK…もとい。
海月慧の存在価値が変わった。


…存在価値じゃないな。なんて言ったらいいんだろ。
俺の中での慧、そのものの存在が変わったと言うか。

…難しいな。
どう表現したらいいんだろ。


とにかく、俺は慧に必要とされていることが実感できて、少しだけ自分に自信が持てた。

今、思い返せば、あの時の俺の発言は慧を試したかのようで、穴があったら入りたい気持ちでいっぱいなんだけどさ。

例えば『大丈夫だよ』とか『そんなことないよ』って相手に言って欲しくて、『私なんか』って、自分のことを愚図でのろまだと卑下する女の子のような感じ。

慧に『大丈夫』って、そう言われると本当に大丈夫な気がしてくるから不思議だ。


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