SEX,SCHOOL&ROCK'N'-ROLL
スタートライン

(12/28)

「ただいまー」

家に辿り着いた俺は必ず、一番最初に店に顔を出す。

「おう、おかえり。慧はもう練習してるぞ」

それは子供の頃から続けている言わば習慣で、親父のそんな一言を背後に聞きながら自室に向かい、急いで制服を普段着に着替えた。

普段着といってもこれからバンドの練習に入ることもあり、いつもより少しラフな格好だ。
ボーカリストと違ってドラマーの俺は、いかにしてかっこよく目立つかよりも動きやすさが重要で、ドラムを叩く時にしか着ないタンクトップに着替えて部屋を出る。

階段を降りて二階スペースにある洗面所で茶髪のヅラを取り、両方の耳を飾るピアスを全て外して気合いを入れた。
こうやって変身することで気分的にも変われるし、いやがおうでも志気が上がる。

階段を一気に駆け降り、さらに地下へ。
保管スペースから取り出した器材を抱えていつも使っているAスタジオの前に立てば、歪んだギターの音が微かに漏れ聞こえてきた。


ドキドキうるさい胸の鼓動。
このワクワク感が堪らない。

この時にはもう早くドラムが叩きたくて仕方なくて、帰る道すがら、あんなに慧に会いたがっていたことも忘れていた。

音楽活動は俺にとっては何にも換え難いもので、俺の全てでもあったから。
この胸のドキドキも、音楽活動ができる嬉しさから来ているものだと、そう思って疑わなかった。

(――さあ)

逸(はや)る気持ちを抑えて重い扉を押し開ければ、聞こえてくるのは、体を揺さぶる爆音。
心に響く、爆音と呼ぶには些か繊細すぎるそのメロディー。

「おそい」

声がした方向を目を懲らしてよく見ると、SSRのKがこちらに笑顔を向けていた。


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