SEX,SCHOOL&ROCK'N'-ROLL
スタートライン

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ずっと親父と二人きりだったからか、俺は子供の頃から、子供らしい遊びをして来なかった。
近所に同じ年頃の友達になれそうな子もいなかったし、親父のバンド仲間や母さんの音楽仲間だった人が俺を可愛がってくれ、その人たちが友達のような仲間のような存在だった。

子供がいる一般家庭の玩具のように自然とそばにある楽器を手に取り、周りにいる大人の真似をして遊んでいるうちにギターやベースギターを覚えたし、ドラムも自然に叩けるようになったことなんかも少し変わっていると思う。
両親が一般家庭の親とは少し違っていたから、一般家庭がどんなものなのかはわからないけれど。

周りは親父と同じぐらいの年齢の大人ばかりで、同い年の友達はおろか、年下の子供も周りにはいなかった。
子供の頃は一方的に世話をされる側だったから、この気持ちが母性本能のようなものなのかどうかは、実はよくわからない。

「…どう?」
「うん。うまいよ」
「ほんと?」
「うん」
「よかった」

ただ、目の前で大口を開けて美味そうに料理を頬張る慧を見ていると、不思議としあわせな気分になった。


前回、このテーブルで親父と顔を突き合わせて食事したのはいつだったかな。
たまに親父が休みの日は、俺が親父の分の食事も用意して、一緒に雑談なんかもしてるんだけど。

最近は俺がバンドを始めたこともあるし、そう言えば、親父の店以外で親父と顔を合わせてはいないような。
慧と一緒に食事して、不意にそんなことを思い出した。

いつの間にか一人で食事することが当たり前になっていたからか、誰かと一緒に食事すると、こんなにも料理が美味く感じる。
そんな当たり前なことも忘れていた。

「…幸せだな。弓弦と一緒に暮らせるやつは」

その時、慧の口からぽろりとそんな言葉が零れた。



「……え」

まるで漫画の一コマのように、俺は思わず、握った箸を落としてしまう。
擬音を付けるなら、ぽろり。そんな風に。

言った本人は、まるでそれは独り言だと言わんばかりに食べるのに夢中で、俺が漏らした声も聞こえていなさそうだ。
食べてるとこにも擬音を付けるとしたら、がつがつ。まさにそんな感じ。

俺と暮らすと、何か特別なことでもあるんだろうか。
そんなことを言われたのは初めての経験で、思わず、そんな的外れな考えが頭を掠めた。


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