SEX,SCHOOL&ROCK'N'-ROLL
スタートライン

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しっかり度の入った黒縁眼鏡に少し長めの前髪。
まだ学生服姿の慧は、今日はアルバイトが休みの日だ。

親父の店で俺がアルバイトを始め、地下の音楽スタジオを活動拠点、つまりは練習場所とし始めてからの慧は、少し多めに休日と練習時間が取れるようになった。

なんと言ってもスタジオ代がタダだと言うのが大きくて、その浮いたスタジオ代とバイトの時間をバンドの練習時間に宛てられる。
俺もバイトを始めたことで、本気で音楽をやっていくって強い思いを実感できた。

「いいなあ。おまえら最高」

くっくっとまだ喉を鳴らすように笑っている慧は、どうやら俺と親父のやり取りがツボにはまってしまったらしい。
俺の顔をちら見するたび、ぷっと吹き出して、必死に笑いを噛み殺した。



…別にいいけどさ。

相変わらず笑い上戸な慧は、最近、俺の顔を見るたびに笑っているような気がする。
慧の笑顔は不思議と和むから悪い気はしないけど、慧に顔を見られるたび、慧に笑われるのはちょっとどうなんだろうと思う。

いったん、出入口まで出て、地下に続く階段を下りる。
地下にあるのは小さなステージと音楽スタジオ、レコーディング用の部屋がある音楽スペースで、この地下は普段は一般には開放していない。

親父主催で音楽イベントをしたり、たまに知り合いのバンドマンに貸し出すことがあるぐらいで、親父の店は知る人ぞ知る…そんな隠れた音楽の聖地となっていた。



前を行く、少し猫背な背中を追って階段を下りる。
いつもは慧が屈(かが)んだ時にしか見えないつむじが眼下に見えて、思わずしげしげと見つめてしまった。

左右、線対称に、見事に渦を巻くつむじが二つ。
珍しいそれをぼんやりと眺めていたのもつかの間、数秒で地下に着いてしまった。

駅構内のコインロッカーに置いてあった慧のギターもこちらに移し、その身一つで練習できるようになった。
親父に感謝しつつ、スタジオの重い鉄製のドアを開ける。


しんと静まり返ったこの部屋には、間もなくご機嫌なメロディーと様々な音が溢れることになる。


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