SEX,SCHOOL&ROCK'N'-ROLL
スタートライン

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何を隠そう、初めて俺の耳たぶにピアスホールを空けたのも、この若者ぶってる親父だ。
それは、俺がまだ小学校の低学年の頃のこと。

朝、目が覚めたら、既に金色の小さなピアスが両耳に装着されていた。
寝ぼけていた俺は洗顔の時もそれに気づかず登校して、友達に指摘されてそれを知ったいきさつがある。

見た目も若いし、気も若い。
常連客の中には、親父目当ての女性客も少なくはない。

店自体は俺がアルバイトを始めて中高生の女の子たちも増えたようで、少し前の本格的なジャズ喫茶だった頃のようなマニアックな渋さはなくなってしまったけど。

「弓弦ー、これ2番テーブルな」
「はいよー」

それでも親父は特に気にしていないようで、喫茶店の方は親子で気ままに営業している。

けれど、夜だけはジャズや70年代の土臭いロックに傾倒した音楽を流すバーとしての姿勢は崩さず、時に俺と同年代のバンドにステージスペースを貸し出したりと、未来あるバンドの育成にも取り組んでいる。

この店は一階が店舗になっていて、カウンターと客席以外にちょっとしたステージ設備が用意されてある。
地下はちょっとした音楽スタジオのようになっていて、一応はレコーディングもできる様々な機材が揃っている。

その辺りは一応はプロのミュージシャンである親父のこだわりで、喫茶店の常連客は、一部しかその事実を知らない。
また二階と三階は居住スペースになっていて、一階店舗でライブをする時は、テーブル席を取っ払った店舗全体が客席になり、30名ほどですし詰め状態になる小さなライブハウスへと様変わりする。

「マスター、こんばんは」
「やあ。いらっしゃい」

夜の8時近くになって少し大人の客が増えてきたところで、

「弓弦。そろそろあがっていいぞ」

そう言われ、

「さんきゅ。ちょっとスタジオ借りていい?」
「ああ。がんばれよ」

今日のアルバイトは終わった。



後片付けや何やらをこなし、全てが終わったのが夜の8時過ぎ。
この店は見た目には、喫茶店とショットバーの明確な違いはなくて、7時半のラストオーダーで喫茶店は一応の閉店となり、8時以降はお酒をメインとしたメニューに変わる。

8時にアルバイトバーテンダーの藤巻さんがやってきて、そこからはお子ちゃまはお断りな大人の空間だ。
毎週、水曜日の定休日以外に藤巻さんだけに店を任せることもあり、そこら辺は上手くやっている。

「慧、お待たせ」

カウンターの隅で俺と親父のやり取りを眺めて笑いを堪えていた男に声を掛けると、くくっと小さく喉を鳴らした。


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