SEX,SCHOOL&ROCK'N'-ROLL
屋上をステージに

(21/25)

「…ふっ。先に腹ごしらえしとく?」

Kはまた可笑しそうに笑うと、そのまま店内に入って行った。



賑わう店内は高校生らしき客で埋まっていて、いつもなら女子からの好奇の目に晒されている状態なんだろうけど、今日は地味な見た目だからか、女の子からの視線は全く感じない。

今、俺たちに注がれている視線は、俺たちと同じようにバンドマンらしき男子の視線が大半だ。
ギターケースを抱えた金髪に近い茶髪のKはどこからどう見てもバンドマンで、反対に黒髪に戻した俺はどう見えているのかが気になった。

「持ち歩いてるの、ドラムスティックだけじゃないんだ」

二人とも長い前髪で顔を隠してて、怪しいことこの上ないし。

「うん。一応はキックペダルとスネア、シンバルも自分用のを使ってる」

それでも、いつも感じる女子からの不躾な視線がないだけマシかな。

「うちさ、親父が喫茶店やっててさ。いわゆるロック喫茶ってやつ。夜はバーなんだけど。そこでも練習してるし、コインロッカーには置いとけないかなって」

カウンターで俺はAセット、KはBセットを注文して、店内の出入口に一番近い席を陣取った。



その席はガラスの自動ドアと窓ガラスから外が一望できて、道行く人の観察もできる席だ。
Kはどうやら開放的な方が好きらしく、ラーメン屋や牛丼屋なんかの飲食店も同じ位置の外と向かい合った席に着く。

「そう言うKは家にもあるの?」
「ん?」
「ギター」

自分専用の物を持ち歩く俺とは違い、Kは学校にアコースティックギターも置いていて、屋上の踊り場の隅の今は使われていないロッカーにそれを仕舞っている。

「うん。駅のコインロッカーに置いてあるこいつが言ってみればバンド活動用で、一応は部屋にある練習用のと使い分けてる」

Kの場合はKとしての姿は秘密にしてるから、Kじゃない海月慧の時に持ち歩けないからだろう。
ギターケースを提げて歩くとバンドをしてることは、一目瞭然で嫌でも目立つ。

俺の場合は、大きめのスポーツバックかなんかがあれば、それに器材を入れておけばいい。
ギターケースを持ち歩くKとは違い、バンドをやってることも気付かれにくいし。

Kはギターケースを床に下ろすと、凝り固まった箇所をほぐすように小首を傾げ、肩を何度か後ろに回した。


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