SEX,SCHOOL&ROCK'N'-ROLL
屋上をステージに

(20/25)

一瞬、その姿に見惚れる。
目の前に立っている慧は、どこから見ても俺が敬愛してやまないカリスマギタリストのKだ。

Kは鏡の前でヅラの髪をある程度、整えると、ポケットからおもむろに何かを取り出した。
取り出したのはコンタクトレンズが入っているケースで、目の前でKがそれを目に入れ始める。

思わず見入ってしまった。
コンタクトって、あんな風に入れるんだ。

うわー、俺には無理かも。
尖端恐怖症だから。

そんなことを考えていたら、レンズを入れ終えたKがこちらに向き直る。

「それさ。外せる?」
「え?」
「ピアス」
「あ」

忘れてた。外さなきゃ。
少しだけサイドを短くしたから。

今までは髪に隠れて見えなかったけど、今は結構、見えてるかも。

「ピアスはチャラ男の基本だったからなー」

一つ一つ外しながら自虐気味に笑ったら、

「…てっ!」

苦笑ったKに額をぺちんと叩(はた)かれた。



Kはいつも、俺が自分のことをチャラ男だと自虐的に言うたびに微妙な顔をする。
家では一応、ちょこちょこやってはいたけど、家以外ではバンド活動をサボって女の子たちと遊んでばかりいたし、チャラ男って呼ばれても仕方ないんだけど。

そのたびに頭を軽く小突いて、

『ちゃんと練習してたろ。見ればわかる』

とかなんとか、嬉しいことを言ってくれるKには、いつも惚れ惚れしてしまう。
こちらを見ずにぶっきらぼうにそう言い捨てる、その様子がまたかっこいいのだ。

「それ痛くないの?」

軟骨に空けた少し大きめのゲージのボディーピアスを外していたら、Kにそう聞かれた。

「うん。全く」

そう言えば、Kはアクセサリーの類は一切、身につけてなくて、ライブでもいつもそうだ。

「それよりコンタクトの方が痛そう。目に異物を入れるなんて信じられない」

俺がそう言うと、Kはまた小さく笑った。



変身が終わった俺たちは、ロッカーから荷物を取り出して駅を出た。
Kはヅラを被ったのとシャツを少しだけ派手にしただけで、ギターケースを抱えていること以外はさっきと変わらない。

「弓弦は荷物置いとかねえの」

ふと気付いたようにそう言って、Kが足を止めた。


Kが足を止めたのはファストフードのハンバーガー屋の前で、

「…あ」

条件反射的に、腹の虫がぐうと鳴る。


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