SEX,SCHOOL&ROCK'N'-ROLL
屋上をステージに

(10/25)

「…くらげだ」
「……は?」

嘘だろ。そんな、まさか。
けど、この顔には見覚えがある。

ほんの一週間前の進級テストの時のことだ。
上位100名まで貼り出された順位表。

『また一位だよ。A組の海月』
『くらげ?』

憎らしげに高橋は言った。
確か、その名前は『海月慧』だったかな。
三年間、同じクラスにならなかったし、学科が違うからよく知らなかったけど。

『あ。ほら、あいつ』
『えっ、どこ?』

貼紙を興味なさそうに眺めてすぐに目をそらした、そのつまらなそうな横顔がとても印象的でよく覚えている。

そうか。
名前が『慧』だから『K』なんだ。

「くらげねえ……」

それより灯台もと暗し。
こんなに身近に、憧れのギタリストがいたなんて。

Kはギターをじゃらんと爪弾(つまび)いて、つまらなそうにぼそりと呟いた。

「…うみづきだっつの」
「え?」
「名字。海月って『くらげ』じゃなくて『うみづき』って読むんだよ」

アコギから視線は外さず、Kは苦笑いながらそう言った。
爪弾いているのは、昨日、カラオケルームで聴いた新曲だ。


なんというか……、

「普通すぎて驚いた?」
「うん。あ、いや」

…しまった。つい本音が。

ドロップ・アウトのライブには何度も足を運んだけど、Kはもっと明るい髪色をしていたはずだ。

もしかして、あれ、ヅラなのかな。

それから、長い前髪で隠れていた顔もはっきり見たことはなかったんだけど、それにしても目の前のKは、本当に普通で平凡な容姿をしている。

Kが掛けている眼鏡はどうやら伊達ではなくて本物のようで、かなりの度数が入っていそうだ。
一重で切れ長な目はまるで狐のようで、完全な日本人顔をしているし、お世辞にもかっこいいとは言えない。

「あ。えと、ごめん」
「ぶっ、いいよ。ほんとのことだろ」

ようやくギターから離れたKの視線が、真っ直ぐ俺のことをとらえた。


…あ。
俺、自己紹介してないや。
なんか一方的に、ヘンなことを口走っちゃったけど。

「あの、俺……」
「F組の柴田弓弦だろ」
「あ。俺のこと知って……」
「目立つし。いろいろと」

そう言われて顔が熱くなる。
嫌な予感しかしないから。

「柴田、美形だし、妙にモテてるし」
「…チャラいし?」
「うん」

…やっぱり。

言われたことにうなだれる。
いや、まあ……、自覚はあるけど。

「それから、新歓ライブでドラム叩いてたろ」
「あ。うん」
「で、けっこう上手いなあってさ」

あ、嘘。
観ててくれたんだ。

そう言われて余計に顔が熱くなる。
あんなボロボロなものをKに観られただなんて。


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