カーテンの向こう側
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なにこいつ。
…めちゃくちゃ可愛いんですけど。
そんな泉の仕種がとても可愛く見えて、俺は腕を突っ張り、泉を引き剥がした。
相変わらず俺の方を少し睨みながら、憎らしげに見上げてくる潤んだ目が堪らない。
「そっ、それは、そのぉ……」
本当の理由を言うのが恥ずかしいというか、何と言うかで、思わず口調がしどろもどろになるヘタレな俺。
好きな子に嫉妬されることが、こんなに嬉しいものだとは思わなかった。
泉から思わず視線を外し、再び頭を掻きながら覚悟を決める。
「ああ、もうっ。泉さ。おまえ、彼女の下の名前、知ってるか?」
結木と泉とはクラスメートだけど、おそらく泉は、結木の名前までは知らないだろう。
「いづみっつーの。ただし、平仮名のな」
そう告白するも泉はその意味がわからないようで、ぽかんとした顔で俺のことをじっと見てくる。
「んで、おまえと同じとこにホクロもあるし」
そう白状しながら泉をちら見してみるけど、泉は未だ半ばほうけたままだ。
思えば泉は昔から鈍感で、中学時代には、泉に想いを寄せる女子に俺がちょっかいを掛けていたとは思いもよらないだろう。
顔は普通すぎるぐらいに普通で平凡な男のくせに、実は、泉は一部の女子にとてもウケがいい。
泉が好きだというやつが現れるたびに先手を打って、俺が邪魔していたことにも泉は気付いてはいないだろう。
「その。彼女とセック……、あ。いや」
「うん。知ってるから続けて」
なのに、余計なところだけ鋭かったりするもんだから、慌てて言い繕いながら言葉を続けた。
「とにかく、ヤッてるとさ。その……、おまえとヤッてる気分になれるんだよ」
「はあ?!」
そんな素っ頓狂な声を出して驚くってことは、やっぱり俺が言った言葉の意味はわからなかったらしい。
「おまえと同じとこにホクロがあるし、最中に、おまえの名前を呼べるし」
そうカムアウトして恐る恐る斜め下から見上げると、しばらくは口を開けてほうけていた泉。
けれど、そのうちその意味がわかったのか、泉の顔は、一瞬で耳まで真っ赤に染まった。
Bkm
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