カーテンの向こう側
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思い掛けず大きな音がしたが、構わず窓を開け放つ。
窓枠を跨いで泉の部屋に入ってみると、部屋の様子は子供の頃とほとんど同じだった。
「え、うそ。なんで……」
俺の奇襲によほど驚いたのか、一言そう言うと、泉は、ぽかんと口を開けてこちらを見遣ってくる。
久しぶりに泉の視界に真正面から入ることができて嬉しかったが、あまのじゃくな俺は無愛想を装った。
「来ちゃ、悪いかよ」
気まずい沈黙を打ち破るようにそう言ってみたけど、泉はさっきからずっと半ば口を開けて固まったままだ。
「返せよ」
「え」
「傘」
奇襲した理由付けにそう言ってみれば、おそらくはベッドに放り投げてあったんだろう。
すんなり、それを手渡された。
つか、泉。頼むから空気読めよ。
そんなに簡単に手渡されても、このまま『じゃあな』と帰るわけにはいかない。
何年かぶりの泉の部屋は思っていたよりも狭く、自分の身の置き場に困ってしまう。
仕方がないから、泉のベッドの脇に腰掛けた。
その瞬間、あからさまにびくりと驚いて、泉はずりずりと壁際に後ずさる。
その様子に何かのスイッチが入ってしまった俺は、泉の方に身を乗り出した。
俺が窓から入って来た時、泉はベッドに仰向いて寝転がっていた。
俺に気付いて慌てて身を起こした泉は、今はベッドにぺたりと座り込んだ状態だ。
身を乗り出したことで、期せずして泉を壁際まで追い込んでしまった。
壁に退路を奪われた泉は、言ってみれば八方塞がりの状態で、今にも泣きそうな顔をして、涙に潤んだ瞳で俺のことを見てくる。
小柄な泉の肩を軽く押せば、簡単にベッドに仰向いて倒れ込んだ。
「…な…に」
俺を意識しまくっているのか、泉の声は不自然に裏返って少し掠れている。
そんな泉の上に馬乗りするような体勢でのしかかると、泉の頬が僅かに紅潮なんかするから、
「ああ、もうっ」
俺はおもむろに、ぐしゃりと自分の前髪を掻き上げた。
Bkm
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