涙と猫と赤い傘
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「今までの俺の歴代の彼女ってさ。けっこう普通の子が多いって、そう思わなかったか?」
言われてみればその通りで、壱人ぐらいのモテる男にしては歴代の彼女たちには悪いけど、どの彼女も壱人の彼女にしてはレベルが低いなとは不思議に思っていた。
壱人なら当然、美人に告られたり言い寄られてもおかしくはないのに。
「泉に似た女ばかりを選んでたからな」
雰囲気だとか笑った顔がとかごにょごにょ言ってるけど、それってば俺は平凡な男だと言われているようで、全然、嬉しくないんだけど。
「けどさ。今度の結木さんは美人じゃん。しかも巨乳で」
そう言ってやると、壱人は下を向いてうなだれた。
「そっ、それは、そのぉ……」
そら見ろ。言い訳できないじゃん。
(壱人。おまえはスケベで女好きで……)
心の中で罵(ののし)っていたら、不意に壱人の顔がまた真っ赤なのに気がついた。
「ああ、もうっ。泉さ。おまえ、彼女の下の名前知ってるか?」
壱人は真っ赤な顔をしたまま、そんな訳のわからないことを聞いてくる。
結木さんとは同じクラスだけど、そう言えば名前は知らないな。
「いづみっつーの。ただし、平仮名のな」
え。なに。それってつまり?
「んで、おまえと同じとこにホクロもあるし」
ますます訳がわからなくなって目が点の俺の目尻に、そんなことを言いながら唇を寄せてくる壱人。
あ……、またキスされた。
知らなかった。
壱人ってば、実はキス魔だったんだ。
そう言えば結木さんも俺と同じに、右の目尻に小さな泣きぼくろがあったっけ。
だからどうしたって言うんだろ。
自分で言っといてなんだけど、鈍いんだかどうだかの俺をよそに壱人は、俺をぎゅっと抱いたまま肩越しにまたごにょごにょ言いだした。
「その。彼女とセック……、あ。いや」
「うん。知ってるから続けて」
言い当てられて少し慌てたそぶりを見せながらも、観念したように続ける壱人。
「とにかくヤッてるとさ。その……、おまえとヤッてる気分になれるんだよ」
「はあ?!」
な、なにをバカなこと……、
「おまえと同じとこにホクロがあるし、最中におまえの名前を呼べるし」
だから、今回は長く続いてるんだろうなと結木さんに知られたら殺されそうなことを飄々と言ってのけ、壱人はバツが悪そうに頭を掻いた。
Bkm
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