涙と猫と赤い傘
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小さな音をたてて、何度も繰り返されるそれ。
俺、いま壱人とキスをしてるんだ。
(……なんで?)
壱人には美人な彼女がいるし、俺とはもう話したくないのだとばかり思っていた。
なのに、
「……なんか言えよ」
壱人は困ったように聞いてくる。
「ああ、もうっ。だからやだったんだ」
そう言うと俺の体を抱き起こして、自分もベッドの上に座り直した。
久しぶりに、こんな近距離で壱人を見た気がする。
何故ぜだか首まで真っ赤になってるからか、俺の涙も止まってしまった。
何がしたいのか、何を言いたいのか、壱人の真意がわからない。
ちょいちょいと人差し指で呼ばれて、壱人の方に身を乗り出せばそのまま真正面から抱きすくめられた。
「……俺と泉ってさ。共通の話題がないじゃん」
確かに壱人の言うように、俺たちには共通の趣味もなければ特に盛り上がるような話題もない。
「だから、なんて話し掛けようかって考えているうちにきっかけを失っちまって」
それが泉に話し掛けられなくなった理由と情けない顔でそう言うとまた体を離して、
「わわっ」
壱人に軽く持ち上げられたと思ったら、向かい合わせに壱人の腰を跨ぐように体勢を変えられた。
真正面から苦しいほどに抱きしめられて、壱人の声が斜め後ろから直接聞こえてくる。
その不思議な状態に戸惑っていると、壱人が思いがけないことを言いだした。
「泉、好きだ」
一瞬、自分の耳を疑った。
壱人が何を言ってるのか、俺には理解できなくて。
だってさ。おまえ……、
「……壱人、彼女いるじゃん」
そう。あまり話さなくなった中二の頃から途切れたことがない彼女が。
「関係ないよ。彼女には悪いけど、みんな泉の代わりだから」
壱人が喋るたび、右耳の後ろがくすぐったい。
壱人はそう言うとそこに軽くキスをして、思いがけないことを言いだした。
Bkm
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