幼なじみプレイ
涙と猫と赤い傘

[18/25]
この教室は二階にあり、その声は窓の向こうの階下から聞こえてくる。

「泉ー!」

下の名前で呼ばれてまた胸が跳ねたけど、そのお陰で俺を呼んだやつが誰だかわかった。
今んとこ、俺のことを下の名前で呼び付けにするのは壱人以外に一人だけだ。

窓の下を見下ろすと、まずは見慣れた坊主頭が目に入ってきた。

「泉、授業終わり?」
「うん」
「じゃあさ。待ってて。途中まで一緒に帰ろうぜ」

練習はどうしたんだよと聞いてみたら、橋本は雨で自主トレだからと言ってきた。
大好きだからとかなんとか言い切ったわりには、相変わらずいい加減なやつだと思う。

「おお。待っ……」

待ってるから早く着替えて来いよと言いたかった声が、机を叩く大きな音に遮られた。


一瞬、しんと静まり返った教室。
音がした方を見ると壱人が立ち上がって、鞄を引っつかんで教室から出て行くところだった。

「壱人、どうしたの?」

慌てて壱人の後を追う彼女を気遣わず、壱人は足早に教室から出て行った。


席を立った瞬間、

「帰るぞ」

そう一言、言い放った壱人。
久しぶりに聞いた壱人の声が超不機嫌なそんな一言だなんて、我ながら泣けてくる。

なんで急にそうなったのか、俺にはさっぱりわからなかった。
最近の壱人は無愛想で無気力で、何に対してもこんなに感情をあらわにしたことはない。

それからしばらくして、橋本が着替えて戻って来た。
しきりに首を傾げながら、後ろを振り返る。

「なあ。新見のやつ何かあった?」
「えっ。なんで?」
「さっき廊下で擦れ違ったんだけどさ。ちょー機嫌が悪くて、擦れ違う時に思いっきり睨まれちったよ」

怖いのなんのって。
そう続けながら、泉の幼なじみなんだろうとそう聞かれた。
そう聞かれても、俺は曖昧にしか返事ができなかった。

Bkm

prevnext
18/133ページ

PageList / List / TopPage
Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved.
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -