幼なじみプレイ
可愛いとか言うな!

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一瞬、初めて自分でメイクをしてみた日のことを思い出した。
俺が初めて自力でした化粧は、見るも無残なお姉メイクだ。

彼女のメイクは、あん時よりは遥かにマシだけど、決して男ウケするものじゃない。

「ってか、男にウケてどうすんだ」

思わず、自分にツッコミを入れる。

「まあ、大丈夫だろ」

もし万が一にも女装した時の俺と同じになってしまったら、もう女装で出掛けなきゃいいだけのことだ。
そもそもが好き好んで女装してるわけじゃないんだし、その…なんだ。
別にデートなんかしなくてもいいし。

「泉」

その日の放課後。そんなことをいろいろ考えてたら、壱人が俺を迎えにやって来た。
その声に、慌てて荷物を鞄に詰める。

ふと壱人の方を見ると、黒板をじっと見つめていた。
やばいと思ったけど遅すぎた。

「なに。泉がC組の裏コン代表?」

俺の名前を確認した壱人は、気が抜けたようにそう呟いたのだった。



いつもより、少しだけ速足で帰る通学路。
その原因の、俺より確実に歩幅が広い壱人の後を追う。

時刻はもう夕方というよりは夜といってもいい時間帯で、辺りのオレンジ色が宵闇に溶けていく。
足元から飲み込まれていくそれに、新月は味方をしてはくれないらしい。

「暗くなるのが早いと思ったら、今日は月が出てないのな」

不意に黙り込んでしまった壱人に、心底どうでもいいことを口走ってしまう俺。
それを聞いているのかいないのか、ともかく壱人が不意に足を止めた。


周りに秘密にしてなきゃいけないのに、壱人は俺が代表になったと聞けば喜びそうだ。
ずっとそんなことを思ってたんだけど、こちらを振り向いた壱人の顔は、予想とは裏腹に複雑な表情をしている。

嬉しいような困ったような、なんとも言えない顔をして、言葉を探しながら小さく唸って頭を掻いた。

「まさか泉が代表になるとはなあ。もしかして、くじ引きで決めた?」
「あー、えーと……」

俺のくじ運がないのを知っている壱人は、やっぱなと呆れたように言って苦笑う。
それから家に帰るまで、何故だか壱人の機嫌は悪かった。


多分、母さんは、買い物にでも行っているんだろう。
珍しく施錠された玄関のドアを合い鍵で空けて家に入る。

「ただいまー……」

いつもの癖で言ってしまったけど、当然のように返事はなかった。

Bkm

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