可愛いとか言うな！
[2/12]
それから結木さんは二、三度辺りを見回して、
「それより橋本、見なかった？」
「橋本？いねえの？」
「さては逃げたな。ごめん、泉ちん。今日は屋上パスね」
そう言うと、慌ただしく教室を出ていった。
多分、食堂か購買に行っている橋本を追ったんだろう。
橋本は、いつも食堂で昼飯を食べるか購買でパンを買って、野球の昼練をするためにグラウンドに向かっている。
橋本と結木さんは犬猿の仲のような間柄で、それがここ最近、二人の距離がぐっと縮まった。
相変わらずギャンギャン口喧嘩ばかりしているけど、なんやかんやでよく一緒にいる所を見掛ける。
いつの間にか結木さんは橋本のことを気安く名字で呼び捨てにしてるし。
彼女は俺のことは別にして、今じゃ、壱人のことも他の男子と同じように『新見くん』って名字に『くん』付けで呼んでいるのに。
「おっと。こんな時間か」
二人が一緒にいるのは、学園祭の打ち合わせっていう名目上ではあるけど、俺としては何と言うか、ほほ笑ましいと言うか。
俺は表向きには無関心を装いながらも、心の中では、二人がうまく行くことを願っていた。
教室を飛び出し、半ば駆け出すように一路、屋上を目指す。
もうすぐ、南校に年に一度のお祭り日がやって来る。
「やばっ。もう、壱人、屋上にいるかな」
間近に迫った学園祭で、俺たちのクラスの催し物は、お化け屋敷に決まった。
橋本は、お化け役のドラキュラ伯爵を。そして、結木さんがそのヘアメイク及びスタイリングを担当することに決まっている。
それがきっかけになって、二人の距離が近づいて、よく一緒にいるようになった。
一部の詮索好きなクラスの女子の間では、二人は両思いじゃないか、なんて言われていたり。
校舎の階段を駆け上がり、最上階の踊り場にあるドアを開ける。
「遅い」
「ごめんごめん」
「よ」
「え」
ドアの向こうの屋上には、少し不機嫌な壱人と一緒に、思い掛けないやつらがいた。
いや、四六時中、壱人と一緒にいるやつらだから思い掛けないこともないけど、ここに来たのは初めてじゃないだろうか。
「あ、ども」
一人はビジュアル系バンドのボーカリストの村上で、もう一人は、さっき俺がメールを送った相手だ。
「あ」
そいつ、水上が壱人の後ろで向こうを向いて何かごそごそやってると思ったら、ポケットに入れてある俺の携帯が鳴りだした。
Bkm
prev｜next
123/133ページ
PageList / List / TopPage
Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved.