涙と猫と赤い傘
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夕食が終わり、久しぶりに家族全員が集まった団欒に付き合って、自分の部屋に戻ったのは夜の9時過ぎ。
ベッドの上に置きっぱの携帯電話が、メール着信を知らせる色に点滅している。
確認してみると橋本からのメールだった。
いつものように、絵文字やデコ文字でいっぱいの賑やかな本文でさっぱり要点を得ない。
『どうだった?』
要約すると、どうやら今日の補習でやったプリントの手応えを聞きたいだけのようで、
『全然だめ』
の本文に、いくらかお約束のように絵文字を添えて返す。
高校二年生の夏休み初日。今日は、本当に散々な一日だった。
朝っぱらから見たくないものを見せつけられて、とどめは小雨の中のツーショット。
玄関先で広げた傘は家族団欒が終わる頃には完全に乾いてて、ちゃんと折り畳んで持ってきた。
それを携帯電話の横に並べて、なんとなく窓の向こうを見遣る。
「あ」
次の瞬間には、見てしまったことを激しく悔やんだ。
この窓の向こうは壱人の部屋で、明かりのついた部屋に人型のシルエットが二つ。
こんな時間に、しかもベッドに座っているとか、その相手は家族の誰かじゃないはずだ。
だとしたら、考えられるのはただ一人。
二つの人影はゆっくり近づいて、そのまま横倒しに消えた。
「…………」
悲しいかな、こんな場面に遭遇したのは初めてじゃない。
初めて壱人に彼女ができた日から、幾度となく目にしてきたシーンだ。
初めて見た日はいつだったっけ。忘れたけど、あの時の衝撃だけは忘れられない。
幼なじみに先を越されたからにしてはショックすぎる、その感情の起伏に戸惑った。
目の前の赤い傘を見つめて考える。もう壱人追うのはやめにしよう。
昔のように喋ることも一緒に遊ぶこともないし、彼女がいる間は俺から話し掛けないと壱人から話し掛けられることもないのだから。
そうなると補習授業だけが問題だった。
学校でだけは、嫌でも二人と顔を合わせる。
正直、サボってしまいたいところだけど、追試で合格点を取らないと進級できない。
おまけにおバカな俺は自慢じゃないが、そう簡単に、一発や二発で合格する気もしない。
嘘っこだけど、壱人と同じクラスだと浮かれていた昨日までが懐かしい。
俺から壱人に話し掛けなければ、俺たちの関係はこれで終わりだ。
Bkm
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