幼なじみプレイ
涙と猫と赤い傘

[10/25]
姉ちゃんの話の内容がどんなだったか、実ははっきりとは覚えていない。
自分の邪まな気持ちに気付いたその日に見せられる物にしては、少し刺激が強すぎたんだろう。

ただ一つだけ覚えているのは、

「ねえ、泉。恋するのにはね。男も女も関係ないんだよ」

そう言って笑った、姉ちゃんの優しい声だけ。
続けて、

「恋することはやめられないからやめちゃだめだよ」

と、よくわからないことを言われたっけ。

当時の俺は壱人に対する気持ちもまだ半信半疑で、姉ちゃんの言ったことはよくわからなかった。
ただ、時間が経つに連れて自分の想いを自覚した。

そのたびに、その言葉の重さに縛られる。


絶対に叶わない恋なのに、恋することに何かの意義があるんだろうか。
どんなに壱人を想っても、この想いは壱人には届かない。

ぼんやりしている俺のことを心配してか姉ちゃんが、

「大丈夫?」

そう聞いてきた。

「え。何が?」

なんて笑ってごまかしたけど、どうしようもなく切なくて泣きそうだった。


「泉、あんた。借り物ならちゃんと乾かして綺麗にしときなさいよ」

母さんに促されて玄関へと向かう。
玄関先に傘を広げて改めて見たら、彼女の傘は普通の傘より少し小さな傘だった。

鮮やかな赤い色といい、少し小さめの手頃なサイズといい、この傘は女性用なんだろう。

ふと、それでも自分にちょうどのサイズだったことを思い出して少し笑った。
自分はこの傘のお陰で少しも濡れることはなかったけど、土砂降りの中を壱人と彼女が相合い傘で帰ったとして、そしたら壱人の半身は雨でびしょ濡れになっていただろう。

なーんて、勝手に想像して勝手に自己嫌悪。
勝手にまた落ち込んで、目の前の赤い色をじっと見つめる。


(……返さなきゃ、いけないよな)

でも今は、壱人の顔も壱人の彼女の顔も見たくない。
それでも明日になるとまた、嫌でも顔を合わせることになるんだけれど。

気付けばやけに静かだけど、もう雨はやんでいるんだろうか。
耳を澄ませば、きんと張り詰めた空気の音が聞こえてきそうだ。

「泉?」

背後から姉ちゃんの声がして、俺は振り向いてまた笑ってみせた。

Bkm

prevnext
10/133ページ

PageList / List / TopPage
Copyright © 2010 さよならルーレット Inc. All Rights Reserved.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -