読み切り短編集
二番目でもいいから
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豪太は豪太で、これまでのいきさつを話してくれた。
時計はその世界では有名な職人の手による一点もので、豪太自らデザインしたものをオーダーメードしたらしい。

ベルトの内側にお互いの名前が刻まれていて、それが自分の名前であるのを確認した時は、ちょっと恥ずかしいけど、思わず泣いてしまうところだった。

篠崎と豪太は中学生の頃に彼が襲われているところを助けたのが縁で、伶はまるで弟のように自分を慕ってくれていると豪太は笑った。
どうやら豪太は彼の想いには気付いていないらしく、どうして伶がそんな意地悪をしたのかと、しきりに首をひねっている。

「充。真っ白」
「ははっ。豪太こそ」

豪太の肩に雪が積もって、どうやら俺も同じだったらしい。

「豪太、寒くない?」
「寒い。福岡、半端ねえのな。東京より寒いよ」

豪太はそう笑いながら体に積もった雪を頭を振って払い落とし、俺から取り上げた自転車を押すスピードを上げる。


どうやら初めてアルバイトするにあたって篠崎に相談したようで、昼間は彼の父親がデザイナーを務めるメンズ服のセレクトショップ、夜は彼のお兄さんが経営しているショットバーでアルバイトをしたらしく、あの日の彼からの電話は、アルバイト先から遅刻している豪太に向けてのものだった。

豪太は藍原家の次男坊で実家に居づらいらしく、年末年始も帰省しないつもりでいたらしい。
豪太はちゃんとクリスマスのことも考えていてくれていたのに、はやとちりした俺は自分勝手に決め付けて帰省してしまった。

「他に聞きたいことは?」

にやにや笑いながら豪太が言う。
俺が今回のことで悩んでいたのが豪太にとっては嬉しかったようで、久しぶりに機嫌がい豪太は頬がだらしなく緩みっぱなしだ。

実はあの時、豪太も俺に一目惚れしたらしく、二年生への進級テストでわざといくつか間違えて俺と同じC組に潜り込んだこと。
俺とルームメートになるために、裏で少しだけ手を回したこと。
携帯電話の着うたは俺と初めて会った時に流行っていた曲で、豪太が共感したラブソングだということ。

そんな嬉しすぎて涙が出そうなことまで、豪太は包み隠さず話してくれた。
俺は俺で豪太から何も言われなくて悩んでいたこと、俺も豪太に一目惚れしていたこと、クリスマスに特別な料理と手編みのマフラーをプレゼントするつもりだったことを告げる。

そしたら、

「ならさ。これくれよ」

豪太はそう言って俺の首に巻いてあったマフラーを取り、おもむろに自分の首に巻いた。

Bkm
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