読み切り短編集
二番目でもいいから
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ただ豪太から名前で呼ばれただけなのに、自分でも驚くぐらいに胸が騒いだ。

『充』

たった一言なのに、その一言はとてつもない破壊力を持っている。
恐る恐る顔を上げて声がした方を見やると、豪太が真っすぐ俺のことを見つめていた。

「手、出して」

唐突にそんなことを言われ、

「え?」
「いいから」

怖ず怖ずと、自転車のハンドルを握ってない方の手を差し出すと、

「自転車、停めて」
「え?止まってるけど」
「そうじゃなくて」

そんなやり取りの後に、俺から自転車を奪い取ると道路脇に停める豪太。

「手」
「あ、うん」

豪太は改めて差し出した俺の両手をぎゅっと握って、手のひらに何かを握り込ませた。


手袋は駅の構内で外してからしていない。
直接、伝わる豪太の手の温もり。

その真ん中に、何やら冷たい金属を握らされている。

「…メリークリスマス」
「え」

豪太は俺の手を包み込むように握った手を離しながらそう言って、俺はその手をそっと開いた。

「え。豪太、これって……」
「言っとくけど自分で買ったから」
「な…」
「親からもらった金は一銭も使ってない」

それは豪太らしい、お洒落な時計だった。
ブランドや値段はよくわからないけど、かなり高価なものの気がする。

「どうやって……」
「バイトした」
「えっ」
「放課後と、夜もたまにバイトして」

事もなげにそう言ったけど、確か、豪太はアルバイトの経験がないはずだ。
豪太の父親は、有名家電量販店グループの社長で、いわゆる御曹司の豪太は、小遣いに不自由したことがないと自分で言っていた。

「もしかして……」
「うん」

帰りが遅かったのも、たまに朝帰りしていたのもこのためなんだろうか。

「ちなみに俺のもお揃いで買った」

照れ臭そうに笑う豪太の左手首に、同じ時計が巻かれている。

「指輪も考えたけど、充は絶対しそうもないし」
「あ…」
「それにペアの指輪はいかにもって感じで、照れ臭すぎたのもあってさ」

今までのぐるぐるが一気に晴れた。
豪太になんで帰省したのか、携帯電話の電源を切っていたのかとその理由を聞かれて正直に今までのいきさつを話す。

「だからか」
「え?」
「伶がさ。俺が充を迎えに行くって言ったら、皆月先輩に意地悪してごめんなさいって伝えてって」

Bkm
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