読み切り短編集
Life is beautiful
(7/9)
6月の花嫁
ついつい買ってしまった。
つか、どうしよ、これ。
電車待ちの時間にふらりと寄った駅ビル内の書店。
店頭のアピールラックに飾ってあったその雑誌を見掛けた瞬間、ふらふらとまるで吸い寄せられるようにその雑誌を手に取った。
季節は初夏。
6月と言えばジューン・ブライド。
6月に結婚したカップルは幸せになれると言う。
実はこれって外国から伝わった話で、その国が6月に卒業シーズンを迎えることに由来している。
つまりは、大学や高校のキャンパスライフで愛を育んだカップルが満を持して卒業と同時に結婚すると……、と言うことらしい。
日本をこれに当て嵌めると梅雨の真っ只中だし、教会だとか外で式を挙げるのには全く向かない。
それでも、なんとなくそんな風潮になっていて、まあ、その6月を一つのきっかけとして結婚に踏み切るカップルも多いんだろう。
思っていた通り、その雑誌は花嫁向けのようなものだった。
結婚式に向けての準備やら何やらを教えてくれる記事が大半だが、巻頭ではウェディングドレスの特集が組まれている。
一瞬、そのページで手が止まる。
これとか先輩、すっげー似合いそうなんだけど。
ホームのベンチでそれを読み耽っていたからか、電車を一本乗り過ごしてしまった。
次の電車に乗り込んで、もう一度、雑誌のページをぺらぺらとめくる。
ウェディングドレスの特集ページの後半に、申し訳程度にタキシードの特集が組まれていた。
ウェディングドレスを先輩が着てくれるはずはないし、だとしたらやっぱりこっちかな。
あ。このタキシードは先輩に似合いそうだ。
先輩には白いのよりも、スタンダードな黒が似合う気がする。
そのタキシードを着ている先輩の隣に、白いタキシードを着て立ってる俺を想像してみた。
先輩が俺のお嫁さんになってくれる気は全くしないから、俺が先輩の花嫁になればいいんだ。
たぶん先輩に言っても『くだらねえ』と言われるだけだろうから言わないけど、そんなことを思ってる俺って結構、乙女だよね。
きっと先輩の方が男前で、結婚って型や戸籍にこだわるなんてって笑い飛ばすんだろう。
『え、次は〜』
電車を降りる駅が近付き、鞄にそれをそっと仕舞った。
2011年6月
Bkm
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