読み切り短編集
二番目でもいいから
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酷く久しぶりに豪太の顔を見た気がする。
なのに、疑心暗鬼な気持ちが消えないからか、豪太の顔を直視できない。

わざわざ会いに来てくれた中川には悪いけど、また後日に町を案内するとメールで伝えた。
それから無言のままで寒そうな豪太と二人、自転車を押しながら取りあえずは家を目指す。

「さぶっ」

はらはらと降り出した雪に、豪太が思わずそう零した。
クリスマスイルミネーションで溢れる繁華街を豪太と二人で歩いていると、改めて今日がクリスマスイブだと言うことに気づく。

聞きたくて、聞けないことがたくさんあった。
多分、無言で俺の隣を歩く豪太も同じなんだろう。

今回、俺にわざわざ会いに来てくれたのには、きっとわけがあるはずだ。
クリスマスだからと期待してはいけないことは、十分すぎるぐらいわかってはいるけど。

俺と篠崎、そうして豪太との三人の関係をはっきりさせるためにも、やっぱり豪太とは話し合う必要がある。


俺が聞きたいこと。
それはたった一つ、俺は豪太にとってどんな存在かということだけだ。

二番目でもいいから豪太のそばにいたいだなんて都合のいいことを思っていたけど、二番目じゃもう豪太と抱き合うことはできない。
二番目だとしても、ルームメートとして今年度いっぱいは豪太のそばにはいられるけど。

決してセックスが好きというわけじゃないんだけど、してる間は愛されていると実感できるから、できれば豪太とはそうでありたい。

豪太の後輩の篠崎伶。
仮に彼が豪太の本当の恋人だったとしても、彼が豪太の一番だとは限らない。

もうこの際、浮気でもなんでもいいから豪太のそばにいたい。
豪太といると、そんなしっちゃかめっちゃかな思考が頭を支配する。


少しずつ積もり始めた雪が辺りを純白に染めていく。
肩に積もった雪を頭を軽く振って振り落とす豪太。

どか雪ってぐらいに酷い降りでもないけど、出掛けに傘を持ってくればよかったかな。
そんな豪太を見て思う。

わざわざ豪太がクリスマスイブに、俺に会いに福岡まで来てくれたんだ。
やっぱり、ちょっとぐらいなら期待してもいいんじゃないかな。

お互いに顔を見合わせず、俯きがちに自転車を押して帰路を急いだ。
積もり始めたばかりの新雪を踏み締めながら。

なんとなく後ろを振り向くと、二つ並んだ足跡が自転車のタイヤ跡で左右に仕切られていた。
二人を引き裂いたようにも思えるその跡が、今回の件のようにも思える。

「充」

きゅっと唇を噛み締めた瞬間、豪太が俺の名を呼んだ。

Bkm
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