読み切り短編集
二番目でもいいから
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気温が思ったよりも上がらない町を自転車で行く。
降り出した雨はなんとかやんでくれたけど、空一面を覆った鈍色の雲は相変わらずだ。

今更ながら、歩きで出て来てもよかったことに気付いたた。
この町での移動手段は自転車に頼ることが多くて、実家にいれば、自転車に乗ることが自然と多くなるんだけれど。

この町のコンビニは駅前に一つしかなくて、俺に関わらず、うちの近所の同級生の多くは近所のスーパーの方を愛用していた。
スーパーまでは自転車で5分と少し。
自転車で10分と少し掛かる駅前に行くよりも近いからだ。

その辺りは田舎町ならではなんだろうけど、そんな暮らしも俺はとても気に入っていた。
時間に縛られることのないこの町では、時間は本当にゆっくり流れていく。

家から10分弱で駅に着いた。
まずは駅の地下の駐輪場に自転車を預ける。

中川には悪いけど、今日一日を思えば気が重かった。
予定も何もない俺を誘った中川は悪くない。
こんな日に、俺を放っておく豪太が悪い。

「やっぱり恋人じゃなかったってことか……」

何度考えてみても考えは上手くまとまらなくて、そんな漠然とした結論に辿り着いてしまう。
駅の構内に入って中川を探したけど、中川が乗った電車はまだ到着していないのか、姿は見えなかった。

もう考えたくはないのに、改札を眺めながらも考えるのは豪太のことばかりだ。


こんな田舎町でも帰省のピークを迎えたからか、いつもより多くの人が行き交う構内。
豪太と背格好が似た高校生を見つけ、思わず彼を目で追った。

視線の先、彼の真正面に同い年ぐらいの女の子。
彼女を見つけると、彼は軽く手を挙げて彼女のそばへ小走りで行く。

その場で少し何かを話して、二人仲良く肩を並べて歩き始めた。
人込みに隠れて顔しか見えないけれど、きっと手をつないでいるんだろう。

今夜はクリスマスイブ。
目の前の可愛い恋人たちは、どんな夜を過ごすんだろう。

きっと彼にとって彼女はたった一人(オンリーワン)の恋人で、一番大切(ナンバーワン)な存在なんだろうな。



どうやら電車が到着したようで、改札口付近が賑わい始めた。

「あ」

大きな手荷物を抱えた家族連れの後ろで、中川が大きく両手を振っている。

「おーい。な……、え」

その何人か後ろに、思い掛けない人物がいた。

Bkm
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