読み切り短編集
二番目でもいいから
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『わりい。大丈夫か?』
『あ……』
豪太が振り向いた瞬間、一瞬、時が止まったような気がした。
『…おい』
『……あ。う、うん。大丈夫』
間近に見た豪太のことを、この時、改めてかっこいいと思った。
豪太も自分と同じ男なのに、不覚にもときめいてしまった。
『おまえ、名前は?』
『え』
『見ない顔だけど外部入学組か?』
それが、俺がしっかりと豪太の視界に入った瞬間で、
『あ、うん。C組の皆月充』
『そっか』
豪太は俺の名前だけを聞くと、
『じゃあな』
って、軽く手を上げて戻っていったっけ。
放課後の運動場に西日が射し込み、校舎もオレンジ色に染まっていた。
西日を背負った豪太の表情はよく見えなかったけど、気付けば、豪太を目で追うようになり。
今思えば、あの時、豪太に一目惚れしたんだと思う。
男を好きになったことがなかったから、その気持ちには、ずっと気付かなかったけれど。
思えば告られる前から、俺は豪太が好きだった。
だから付き合ってと言われた時も、全く戸惑うことはなくて。
豪太に好かれていることがただただ嬉しくて、豪太のその気持ちが偽物だなんて考えもしなかった。
俺の他に好きなやつがいたなんて。
しかも、そいつが一番で俺は二番だなんて。
だけど、二番目でもいいから豪太のそばにいたかった。
気付かないふりをすればよかった。
あの時、電話に出なきゃよかった。
「充ー、ご飯の用意できたわよー」
物思いに耽っていると、階下から母さんに呼ばれた。
「いま行く」
重い身を起こした瞬間、目に溜まっていたものが頬を伝った。
慌ててそれを手の甲で拭い、作り笑顔をそれまでの曇った顔に無理矢理、貼り付けて階段を下りる。
朝食にしては豪勢すぎる母さんの手料理を全て平らげ、
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
母さんを玄関先で見送って、再び自室に引きこもる。
再び布団に寝転がると、またもや考え込んでしまいそうだ。
かと言って、出掛ける宛もなく、大袈裟な溜め息とともに目を閉じる。
なんとなく、落としていた携帯電話の電源を入れてみた。
豪太から連絡があっても、出られるはずもないのに。
…ピリリリ
電源を入れた瞬間に鳴り始めた携帯電話。
「――っっ」
思わず息を詰めた。
Bkm
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