読み切り短編集
二番目でもいいから
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来た時よりも少しだけスピードを上げた帰り道。
早朝の冷え込みが緩むことはなく、冷たい空気が頬に刺さる感覚に顔をしかめる。
自転車を漕ぎながら空を見遣ると、さっきよりも辺りが薄暗くなっていた。
ふと思うことがあって空を見上げたら、空一面を覆う鈍色が濃くなっていて、小さな粒が頬に当たる。
それを雨と言うには心許なすぎて、雪と言うには儚すぎた。
まるで上空の雪が地上に落ちるまでに溶けてしまったかのような小さな小さなその粒が、地上への降雪を予感させる。
ホワイトクリスマスの予感は強くなるのに、自分の身の置き場がまだ決まらない。
冬休み中はこっちで過ごすとして、新学期からはどうしたらいいんだろう。
いくら考えても答えは出なくて、考えることを諦めて帰路を急ぐ。
「…はあ、はあ」
冷たい空気が関係しているんだろうか。
いつもより薄く感じる空気に息が上がるとか、これは高校男子としては非常に情けない。
日頃の運動不足が祟っているんだろうか。
運動と言えば体育の授業でしかしない俺には、こうやって自転車を漕ぐだけで結構、堪える。
緩い上り坂で自転車を立ち漕ぎしながら、まあ、スーパーから家までの所用時間は10分と掛からないんだけれど。
「ただいまー」
室内に入った途端、温度差のせいで眼鏡のレンズが曇った。
「お帰り。すぐ朝食にするけん、部屋で待っとりんしゃい」
母さんの言葉に甘えて自室に引き返して眼鏡を外し、敷きっ放しの布団の上に仰向いて寝転んだ。
寮生活している時とは違い、至れり尽くせりの自宅では、考える時間が有り余るほどある。
俺は改めて豪太との関係を馴れ初めから考え直そうと、記憶の糸を辿った。
俺が豪太のことを知ったのは入学間もない頃で、とにかく豪太は入学当初から目立った存在だった。
中等部からのエスカレーター組だからか最初から学園に馴染んでいたし、当時からみんなの人気者だった。
反対に俺が豪太の視界に初めて入ったのは、豪太は覚えてないだろうけど去年の今頃、冬休みに入る直前のことだ。
『わっ!』
あの時、運動場横の渡り廊下を歩いていたら、ハンドボールが俺を目掛けて飛んで来た。
(――ぶつかる!)
そう思った瞬間、豪太が俺の目の前に立ちはだかり、そのボールをボールが飛んで来た方向に弾き返した。
Bkm
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