読み切り短編集
二番目でもいいから
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「…………」

豪太から逃げて帰って来たのに、頭の中はこんなにも豪太のことでいっぱいだ。
今頃、豪太は何をしてるんだろう。
いつものように朝帰りをしたとして、そろそろ俺の不在に気付いた頃かな。

携帯電話の電源は切ってしまった。
冬休みの間中、入れるつもりはない。
こんなことをしでかしといて今更だけど、冬休みが終わって寮に戻ったら豪太と同室なのに、俺はどうするつもりなんだろう。

寮を飛び出してきた自分に自己嫌悪。

「はあ……」

朝から何十回目かの溜め息をつくと吐息が白くて、改めて寒さを実感したりして。

このぶんだと今夜は初雪が降るかも知れないな。
今年はホワイトクリスマスになるかも知れない。

豪太のいないクリスマス。
恋人がいないクリスマスイブ。

今年は母さんと親子水入らずで過ごすことになるんだろうな。


なんて、まるで人ごとのように思っているのはまだ少し未練があるからなんだろう。
今年は、人生初の恋人と過ごすクリスマスになるはずだった。
できれば豪太と一緒にクリスマスを祝いたかった。

「いらっしゃい」
「あ、ども」

スーパーに着いて買い物カゴを持って店内に入ると、レジのおばさんに笑顔で声をかけられた。

おばさんはうちの向かいに住んでいる人で、このスーパーで働く女の人の大半がご近所さんだ。

このあたりは近所に密着したスーパーらしい。
このなんとも田舎っぽい開放感にとても癒される。

東京じゃこうはいかない。

まあ、ね。
学園都市とも言える閉鎖された環境で学園生活を送ってはいるけど。


お目当てのコーナーに行くと、アルバイトらしき女の子が朝一番のタイムサービスの値札シールを商品に貼っていた。
彼女は俺の幼なじみで、近所に住んでる同級生だ。

俺が幼稚園、小中と通った学校は一学年に2クラスしかない小さな学校で、全校生徒が幼なじみのようなものだった。

彼女は俺に気付くと、軽く会釈をしてはにかんだ。
シールを貼り終えるとまた会釈をして、裏手のバックヤードへと消えて行く。

「えっと……、あ。あった」

全員が顔見知りだとは言っても顔を合わせたら話しをするでもなく、本当の意味での幼なじみや親しい友達がいなかった俺は、帰省中に誰と会うようなこともないだろう。



「ありがとうございましたー」

買い物を終え、おばさんの笑顔に見送られて店を出る。
自転車のカゴに買った物を入れてサドルに跨がると、

「わ。わわっ」

前が重すぎて、バランスを崩した。

Bkm
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