読み切り短編集
二番目でもいいから
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二番目でもいいから


俺にこんなに行動力があるとは自分でも思わなかった。

「充。何しとうと?暇なら買い物行って来て」

結局、考えれば考えるほどドツボにはまってしまった。
居ても立ってもいられなくなった俺は、豪太が戻って来る前に急いで荷物をまとめ、その日の夜行バスで福岡の実家に帰省してしまった。

「なに買って来ると?」
「その紙に書いてあるから。あと、あんたの好きなふくやのめんたいも忘れんで買って来んしゃい」
「ん。了解」

自分の部屋で久しぶりにくつろいでいると、母さんから買い物を頼まれた。
母さんは小学校の教師で、土曜日の今日は休みの日だ。

二学期の終業式がある25日は、今年は日曜日で、24日の土曜日と23日の祝日を前に、22日のうちに終業式を終えたらしい。

つまりは今年の冬休みは昨日、23日かららしく、母さんが勤務する小学校も例年より早く冬休みに入っていた。

「行ってきます」
「気をつけて行って来んしゃいよ」
「ん。わかっとう」

生徒が冬休みだからといって、教師も同じに休めるわけじゃないけど、基本的に土日の休みは変わらないらしい。
久しぶりの親子水入らずに母さんは、俺の好物ばかりを用意してくれている。

「…冷た」

自転車のハンドルを握ると、思いがけずひんやりしていた。
手袋を忘れていたことに気付いて一度、取りに戻り、再びハンドルを握って自転車を漕ぐ。

行き先は近所のスーパーで、時間は朝の8時を少し回ったところ。

クリスマスイブの今日、母さんは大忙しで、昼間は生徒たちと、夜は小学校の教え子でもあるOBたちと同窓会と婚活パーティーを兼ねたクリスマス会が予定されている。

毎年毎年こんな感じで、子供の頃から皆月家のクリスマス会はクリスマス当日、25日の夜に決まっていた。
つまり、明日は今まで以上に豪華な母さんの手料理が待っていて、なのに思わず顔が曇る。

豪太にもご馳走を食べさせてやりたかった。
実はこっそり、クリスマスケーキも手づくりする計画を立てていたのに。



今年は少し暖冬だと言われてるけど、ここ福岡は結構、寒かった。
もしかしたら東京よりも寒いかもと心の中で独りごち、ほどけかけたマフラーを巻き直して行く道を急ぐ。

自転車なんて久しぶりだ。
東京での移動はほとんどが電車だし、学園内にいれば移動に自転車なんて使わない。

実は、豪太のためにマフラーも編んでいたりした。
だけど、それは、編みかけのまま寮の部屋に置いてきた。

男が編み物をすることもだけど、それより何より、手づくりのプレゼントだなんて重いものを豪太にはもう贈れない。

Bkm
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