読み切り短編集
二番目でもいいから
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気付くのが遅すぎた。
俺って、こんなにも鈍感なやつだったんだ。
恋は盲目だという諺(ことわざ)があるけど、それを実証するような行動をとってしまった。
こんなことなら帰省すればよかったと、今更ながらに唇を噛む。
浮かれていたのはどうやら俺だけだったようで、恋人に内緒で単なるクラスメートでルームメートでもある俺と関係を持っていたのは、豪太が浮気をしていたことになる。
結局、冬休み初日のこの日も豪太は午前様で、翌朝、辺りがうっすらと明るくなって来た頃にようやく帰って来た。
どうやら、リビングにもダイニングキッチンにも寄らず、そのまま自室に引き込んだようで、次の日も前日と同じ時間に『遅くなる』と一言残して出掛けていった。
こうなるともう、俺たちの部屋は豪太にとって、ただ寝泊まりするだけの場所だということになる。
この部屋でちゃんと生活している俺は、そう考えると胸が痛かった。
そんなことがあったのに、俺は行動を起こせずにいる。
豪太に事の顛末を話して、真実を聞くのがとにかく怖かった。
豪太に俺が浮気相手でセフレだとそう言われたら、豪太との同室期間の残り数ヶ月をどう過ごせばいいのかわからない。
毎日、一緒にいるなかで、豪太から性的な行為を強いられたら、豪太を拒否する自信もない。
恋人じゃなくてもいいから。
二番目でも、セフレでもいいから。
豪太に求められたら全てを許してしまいそうで、俺はそんな自分自身に戸惑った。
例えばこれが豪太と別れてだとか、会わないでとはっきり言われたのなら、まだどうにか対処できたのかも知れない。
彼が確かに豪太の恋人で、俺が浮気相手だという証拠でもあったのなら。
ただ、彼から一方的にそう言われただけで、俺は彼の狂言だと思いたかった。
彼は自分が豪太の恋人だと明言もしなかったし、ただどちらがどちらなんだろうねと聞かれただけなんだから。
その答えは、彼と豪太だけが知っている。
彼はそれを疑問詞として俺に投げ掛けてきたくらいだし、彼からそれは聞き出せない。
だとしたら、豪太に聞くしかないけど、どう切り出したらいいのかがわからない。
八方塞がりの状況下で、俺は再びベッドに突っ伏した。
Bkm
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