読み切り短編集
二番目でもいいから
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今思い返すと、不自然な箇所が多々あった。
彼は豪太のことを名前に先輩をつけて『豪太先輩』と呼んでいたのに、その時に限って『豪太』と呼び捨てにしたこととか。
だけどその時は突然そう言われて、落としてしまった携帯電話を慌てて拾い上げた。
『ねえ。皆月先輩、豪太と付き合ってるんでしょ。ってか、付き合ってると思ってるんでしょ』
通話を切ってしまうと、それこそ彼が言ってることを肯定することになる。
返事ができないのに、電話を切ることもできなかった。
『ねえ、皆月先輩。もしかして、豪太がぼくと浮気してると思ってる?』
だから、彼が一方的に喋っていること全てを聞く羽目になる。
『おめでたいね。皆月先輩って』
他にもこそ泥だとか、いろいろ酷いことも言われたけれど、
『ぼくと皆月先輩。どっちが豪太の恋人で、どっちが浮気相手なんだろうね』
最終的には一方的にそう言って電話は切れた。
例えば、これが疑心暗鬼になっている状態じゃなければ笑い飛ばせたのかも知れない。
そう言われたのは、豪太の帰りが遅いことからそれを疑い始めた矢先のことで、彼の言葉は胸に突き刺さった。
しかも、彼が暗に匂わせているのは豪太が彼と浮気してるんじゃなくて、豪太が俺と浮気しているというものだ。
つまりは、俺が豪太の浮気相手で、彼が豪太の本当の恋人だということになる。
いったん考え始めると歯止めが効かなかった。
考える以前に俺は周りに公表されていない恋人だし、それは俺が浮気相手だからだという理由に直結していく。
よくよく考えてみれば彼からそう問われただけで、俺が浮気相手だとは言われていないのに。
それでも豪太の恋人が彼で、豪太が俺と浮気をしている。
そうとも取れる曖昧な問い掛けにまんまと嵌まってしまい、そう考えるともうだめだった。
だから、どうするか考えた時、自分の置かれている立場に言葉を失った。
豪太のルームメイトの俺は嫌でも…、嫌なことなんかあるはずはないけど。
とにかく、これからも毎日、豪太と顔を合わせることになるからだ。
Bkm
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