読み切り短編集
二番目でもいいから
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セフレと恋人
不安な気持ちを抱えたまま、それから何日かが過ぎても不穏な空気は消えなかった。
『…――』
「え、今日も部活で遅くなるの?」
『…――』
「…うん。わかった。先に寝てる」
短い会話の通話が終わり、通話終了ボタンを押す。
豪太は練習で遅くなるから先に寝ておけと言ったが、今日はハンドボール部の練習がないことを俺は知っている。
中川がしつこく俺に付き纏っていたし、図書室から運動場を見ても部員の姿がなかったからだ。
豪太は知らない。
図書室からハンドボール部の練習風景が見えていることを。
俺がこっそり、窓際から見つめていることも。
不安な気持ちは不信感に代わり、それが少しずつ蓄積していく。
「…はあ」
今回みたいな嘘をつかれたのは、これが初めてじゃない。
図書室であの美少年に絡まれてから、何度かそんなことが続いた。
部活で遅くなるという言い訳が一番多く、友達の部屋に一泊するというのもあった。
おまけに、明日から冬休みに入るというのに、年末の予定もまだ立てていない。
豪太が帰省する気配を見せないから言い出せないが、豪太が帰省する気がないことだけは確かなんだけれど。
豪太に繋がらなくなった電話をベッドの隅に投げ捨て、大の字に仰向いて寝転がった。
今夜は豪太の好物を用意しようと思っていたのに、豪太が夕飯を食べないとわかった途端に食欲さえもなくなってしまう。
遅くなるなら冷めても大丈夫なメニューを用意しておくのに、豪太は食べてくるとそう言った。
今まではどんなに遅くなっても俺の作った夕飯を食べてくれていたのに、ここ最近はこんな日が続いている。
「うー……」
もしかして、もう飽きられたんだろうか。
教室で目が合っても、前以上に完全無視を決められるし。
今までも知らん顔はされていたけど、少なくとも目が合った瞬間に笑ってくれたり、誰にもわからないサインを送ってくれていたのに。
一人分だけの夕食を用意する気にはどうしてもなれなくて、今夜の夕飯は諦めた。
風呂もシャワーだけで簡単に済ませ、ベッドに沈む。
そう言えばセックスする場所はいつもリビングのソファーで、お互いのベッドでしたことがない。
それがどういう意味なのか、初めて考えてまた不信感が募る。
(もしかしてベッドに、誰かとした痕跡が残ってるからとか……)
最悪な考えが脳裏に浮かんだが、無理矢理それを打ち消して枕に顔を埋めた。
なんとか寝ようとしたけど、とうとうその夜は眠れなかった。
そして、豪太が帰って来たのは、俺がいつも起床している時間の30分前だった。
Bkm
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