読み切り短編集
二番目でもいいから
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不安と不信と不穏な空気


結局はそれからも変わりなく、平々凡々な日常は悪戯に過ぎていった。

「おーい、皆月!」

ただ一つだけ変わったことがあるとすれば、教室で俺に話し掛けてくる奇特なやつが現れたことぐらいだろう。


スポーツマンらしく短く纏めた真っ黒な髪。
その色で髪に手を加えていないことがわかるし、ただ、左右上下あちこちに向かって自由奔放に跳ねている感じはお洒落に見えなくもない。
だがそれはおそらく緻密に計算されたお洒落とは違い、少しくせっ毛な髪に寝癖がついただけなんだろう。

「部屋まで送るから一緒に帰ろ」
「…部活は?」

今日は休みだと言って中川はへらへら笑っているけど、今日もハンドボール部の練習があることを俺は知っている。
あの怪我の一件から何かと俺に構ってくるようになった中川は豪太と同じハンドボール部員で、もちろん俺と豪太の秘密を知らない。


うちの学校が私立の全寮制の男子校で比較的自由な校風であることも関係しているのか、部活動に関しても自由な環境にある。
真っ黒の髪色で短髪のスポーツマンらしい髪型をしているのは野球部と剣道、柔道、弓道の各武道部員と体操部員ぐらいで、他の部員は割と普通にお洒落に決めているやつが多い。

豪太も例に漏れずお洒落でかっこいい感じなんだけど、中川の自然に纏めた感じは外部生らしく好感が持てる。
その平凡で普通の容姿は中学時代の同級生たちを思い出して、不思議と気持ちが落ち着いたりもするにはするんだけど。

「や。今日は図書委員の仕事があるから……」「なら俺も図書室に寄るし」

さりげなく委員会の仕事を理由に断ろうとしたのに、結局中川は図書室にまで着いてきた。



この学校、つまりは学園都市で暮らす学生の半分は中等部からのエスカレーター組だということで、豪太のようにバイセクシャルだったりゲイの性癖を持つ生徒も多い。
残る半分の外部入学生も三年間を男だらけの環境で過ごすうち、少なからず偏見もなくなりその道に進む生徒も少なくはないんだけど。


どうやら中川はノンケ、つまりはノーマルな性癖らしく、豪太が心配するようなことはないはずだ。

Bkm
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