読み切り短編集
二番目でもいいから
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その時は、度数が合わなくなって買い替えながら破棄しなかった眼鏡があって、そちらを掛けて学校へ行った。
視界がぼやけた状態での行動は少し不安もあったけど、放課後に豪太に付き合ってもらって眼鏡を買った。

「充、もうちょっと太股に力を入れてみて」
「……あっ」

今思えば、その時にスペアの眼鏡を買っておけばよかったのかも知れない。
今回のように万が一にでも眼鏡が壊れるようなことがあれば、コンタクトレンズに頼らざるを得なくなるから。

個人的にコンタクトにすれば身軽にはなるけど、眼鏡を掛けていないと少し心許ないような微妙な思いに駆られる。
豪太の言うように可愛い顔を隠すためだとは思わないけど、少なくとも眼鏡を掛けている方が目立たなくて済むし。

そもそも子供の頃に虐められていたのは見た目が目立ってしまったからで、その証拠に読書のし過ぎで眼鏡を掛け始めてからは虐めもなくなった。
自分よりも可愛い、バンビだとかチワワと呼ばれてる子たちはたくさんいるし、たかがコンタクトレンズに変えたぐらいで言い寄られることなんかないと思うけど。

「……はあっ」
「んんっ」

なのに豪太は俺が豪太のファンの子たちに嫌がらせを受けることと同じくらい、俺の素顔がばれることを心配している。
だから周りには秘密にしつつも少し悩んでいるようで、時々、周りに公表しようかなんて気まぐれなことを言ってくる。

秘密にしていると俺が嫌がらせを受ける可能性はない。
反対に公表すれば素顔がばれた時に『充は俺のもんだ』と豪太が宣言しておけば周りへの牽制にもなるし、豪太に嫌われるのを避けたいファンからは目に見えた嫌がらせはされないだろうというのが豪太の考えだ。

どちらを取っても利点はあるが、秘密にすると素顔がばれた時の対処が難しいことで誰かから言い寄られる危険性がある。
公表すれば、目に見えてのものはなくても態度や言葉で嫌がらせを受けるリスクを背負うことになる。


「んっ……、充、ちょっと太股の力抜いて。もうイクから」
「…あっ、んんっ」

リビングのソファーで豪太に体を揺さ振られながら、ずっとそんなことを考えていた。
一瞬頭をよぎった秘密にしておくもう一つ別の理由は、行為に集中していくうちにすっかり頭から消えてしまう。

今思えば、なんて俺はおめでたかったんだろうと自分でも思う。
豪太から周りに秘密にされていることで大事にされているだなんて、ただ単純に喜んでいたのだから。

Bkm
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